暑い夏は涼しい場所で 5

 

長い睫毛は濃いワイン色で。

そんな事に初めて気付く。蒼羽が眠っているのを見るのは今日が初めてだから。

普段から蒼羽の睡眠時間は自分より短いらしく、同じベッドに寝ることはあっても、先に目を覚ますのはいつも蒼羽だった。変わらないのは、蒼羽の腕が自分を捕まえている事と。眠りについていてもため息が出るような顔立ち。

 飽きる事なくその寝顔を眺めていると、ふいに母親が彼の寝顔を写真に撮ってきて、と言っていた事を思い出した。

「・・・絶対無理」

 自分だってこの寝顔を何かに残したい。だけど背中に回った腕をどけたら、きっと蒼羽は目を覚ましてしまうだろう。

 昨夜から開けていた窓から、涼しい風が入ってくる。その冷たさに鳥肌が立つ。

「さむ・・・」

 やっぱり蒼羽の腕をどけて、窓を閉めにベッドから出ようかと考え直す。うまく行けば蒼羽を起こさずに、その寝顔を写真に収める事もできるかもしれない。

 そうっと。

 適度に筋肉がついたしなやかな腕を持ち上げて、広いベッドの真ん中から隅の方へ少しずつ、蒼羽から離れる。

 途端に蒼羽の眉がひそめられて、起こしたかな、と思った瞬間に、ものすごく強い力で引き寄せられた。

「何で離れるんだ?」

 その目は完全に開いていて、自分を見ている。

「え、ちょっと寒いから窓閉めようと思ったの」

「じゃあここにいろ」

 背中に当たる手に力が入って、蒼羽の肌が頬に触れた。その体温の暖かさが心地良くて、おとなしくされるままになる。

「冷たい」

 低くつぶやきながら、蒼羽が手触りのいい上掛けを巻き込むようにして自分の体を包んでくれた。

「蒼羽さんはあったかいねー」

 ぴったりと抱き寄せられて、蒼羽の体温が移ってくる。ほっとため息をつくと、頭の上で蒼羽がさらにつぶやく。

「今日はずっとこのままでいよう・・・」

「っええ!?蒼羽さん?何言ってるの?」

 あまりにも、普段の蒼羽からは想像できないようなその言葉に、閉じかけていた目を開いた。ぎゅう、と抱きしめられて耳に甘い声が響く。

「邪魔も入らないし」

 先程感じた寒さと別の感覚が、肌を粟立たせた。

「・・・や。ダメ。出かけないのはいいとしても、そろそろ朝ご飯だから着替えないとね」

「部屋に運ばせればいい」

 溶けていきそうな頭から何とか引きずりだした常識を、即座に蒼羽が切り捨てる。追い討ちをかけるように、言葉を続けられる。

「疲れているだろう?起きなくてもいい」

 確かに全身がだるかったけれど、その言葉には異議を唱えたかったので、口を開いた。

「だ、って!それは蒼羽さんが、っ!!んー」

言い終わらない内に唇を塞がれる。蒼羽の手が背中から下の方へと移動を始めて、電流が巡った。一気に抵抗する気力も無くなって、蒼羽の顔をのぞくと。

 そこには微笑が浮かんでいて。

 蒼羽の腕に体を預けた。

 

 

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