暑い夏は涼しい場所で 4
「はぁー。気持ちいー」
広いバスタブに体を沈めて、思わず声が出る。
白い泡が水面を覆って、ほのかにシトラスの香りが浴室を漂っていた。
夕食はとてもおいしくて。ライトアップされた城の外観や、庭の随所に大量に灯されたキャンドルの灯りも、とても美しかった。
礼儀正しく感じのいい従業員に、上品な宿泊客。そこからも、このホテルが一般の観光ホテルとは違うという事が判って、改めて蒼羽の経済力に驚いた。彼の仕事の報酬は、その職業柄、高額であるだろうとは思っていたけれど、今までにその事実を目にするような事はなく、今日初めてそれを晒された。
パーキングエリアのレストランに入って、昼食を終えた後。
蒼羽がレシートを持ってレジに向かい、何気なく黒い皮の財布から出した、金色のカード。それはゴールドカードと呼ばれる、持ち主の経済状況を黙して語るものだった。
こちらの通貨を持つ事は、仕事に必要だから判るけれど。そう思ってそのカードもセンターが用意したものなのか聞いてみると。
「これは私物だ。現金を持つのが面倒だから。こちらの銀行に上から貰う給料の一部を両替してもらって、預けてあるんだ」
そういう答えが返ってきた。
そのカード一枚持つのに、彼と同じ年代の普通のビジネスマンの年収では無理だったはずで。蒼羽がアウトサイドとして、戸籍を持っているという事は、収入の申告も当然日本円で行われていると思う。一体どれだけの税金を、自分の世界ではない国に収めているのだろう。
昼食後に渋滞に捕まって、少し眠れたおかげで、だいぶ気分も良い。
蒼羽の好意に甘える事にして、快適な入浴時間を楽しむ。こんなホテルに泊まるなんて、自分の力では一生無理だろうから。
長い時間、ゆっくりとお湯に浸かっていたせいだろうか。
「蒼羽さん、お風呂空いたよー?」
リビングに入ると蒼羽が顔をしかめていた。
「なかなか出てこないから、倒れてるのかと思った」
「んー、ちょっとのぼせたかも。ごめんね」
火照った体を冷やす為にベランダへ向かう。
「外で涼んでるから」
「わかった」
うなずく蒼羽の横を抜けて、窓を開ける。避暑地で有名なだけあって、気持ちのいい風が頬をなでた。側に置かれたベンチに座って、ひんやりとした風を受ける。
これから起こる事は良く判っていて。こんなふうに蒼羽を待つ自分にも正直驚いてしまう。今までは蒼羽が求めてくるのを受けとめるだけ。蒼羽がストレートに、当たり前のように手を伸ばしてくるのを、受けとめていた。嫌だと思うことはないし、それで充分なのだと感じていた。
それに蒼羽の嬉しそうな顔や、満足したような表情は、自分が蒼羽を喜ばせる事ができたのだと教えてくれるので。
まだたくさんの人が残る庭を眺めながら、蒼羽の艶めいた目や、きれいな鎖骨を思い出す。途端に自分がとんでもなく恥ずかしく感じて、頭を横に振った。
「うあ・・・恥ずかしい」
「緋天?」
浮かんだ映像を打ち消そうと、必死で別の事を考えようとしていると蒼羽の声が後ろからかかる。内心、かなり焦っているのに。もちろん、そんなことは知らずに蒼羽もベランダに出てきた。
「え、蒼羽さんパジャマは?」
白いバスローブを身にまとった蒼羽が笑いながら答える。
「必要ないだろう?俺としては緋天が何で服を着てるのか疑問だけど」
「〜〜〜っ!!これ、パジャマだもん。もう寝るのっ」
丈の長いシャツワンピース。普段パジャマとして使っているものなのに、蒼羽が恥ずかしげもなく言うので、かなり体温が上がる。
「蒼羽さん、お風呂上がるの早すぎ。10分位しか入ってないよ?」
立ち上がった所を引き寄せられて、がっちりと捕まえられた。
「緋天が長すぎるんだ」
耳元でささやく声が、どこかをくすぐる。
「これ以上我慢できない」
徐々に体の力が抜けていった。
SEO | [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送 | ||