夏の終わりに恋人祭り 7
「蒼羽ー、今の所、7人だけど。本当に一気にやるか?」
一時間後。
フェンネルがにやにやと笑いながら、こちらに歩いてきた。
「お、結構集まったなぁ」
「あれだけ、偉そうにすればね。その態度にむかつく人間が出てくるのよ。多分、勝負を挑むつもりのなかった奴も、目の前で緋天ちゃんに手を出されたりしたから、腹が立ったんだわ」
「そうそう。さっき控え室のぞいたらさ、全員一致団結してたぜー。いやー、暑苦しいのなんの」
「あと、違う奴混じってたんじゃない?」
「ああ、いましたよー。ただ単に自分の力試ししたいやつ。筋肉の塊みたいなの」
フェンネル、そしてベリルとヴィオランで交わされる会話を、薄い笑みを浮かべて蒼羽が聞いていた。
「・・・蒼羽さん、大丈夫?」
そんな風に戦いだけを目的にする人間がいるなら、それはかなりの自信があるという事なのだろう。急に心配になって、蒼羽を仰ぐ。
「緋天の心配するような事にはならない。フェン!始められるなら、全員ここに出してくれ」
そう言って、後半はフェンネルに向かって大きく声を上げる。会場の熱気は大きく、観客の興奮した状態が手に取るように判った。
「お待たせ致しました!!始まりからいた方にはお判りだと思いますが、先程、一戦目の勝者、蒼羽君が挑戦者を一度に相手にすると、そう宣言してから、ちょうど一時間が経過しました。只今を持って、蒼羽君への挑戦は締め切らせて頂きます。そして、今、挑戦者は全部で7名!!これだけの人数を相手に、蒼羽君は本当に戦えるのでしょうか!?それでは、挑戦者の方々、どうぞ!」
フェンネルがステージの影にいたスタッフに合図をすると、次々と左右から武器を手にした人間が出てくる。
「や、あんなの持ってる・・・」
腕の中の緋天が、大きな槍を持った人間を見て、小さくびくついた。
明らかに、一般の人間とは違う立ち振る舞い。熟練した兵士の気を持つ人間に、何かを感じ取ったのだろう。
「大丈夫だから」
安心させる為に、こめかみに口付ける。
ステージに集まった男達から、殺気が発せられたのを感じた。それを心地良く流しながら、首筋にも口付けて。
「蒼羽君、そろそろ降りてきて下さい。皆さんお待ちかねですよー」
緋天を隣の椅子に移してから、立ち上がる。不安そうに揺れるその目を見て、反射的にキスを落とす。
「・・・あんたあいつらのやる気上げてどうすんのよ」
「姉上、その方が面白いじゃないですか」
「ベリル・・・。相変わらず腹黒いわね・・・」
ヴィオランとベリルの声を背にして、ステージに降りる。
「さてと、えー、ここに集まる7名の方々。紹介するのは、勝負がついてからにしましょう。人数が多いので。とりあえず、『緋天さんを慕う男達と力自慢約2名』といった所でしょうか。あ、蒼羽君がやっと準備OKのようです。それでは宣誓をどうぞ」
「おれ達は!」
「蒼羽さんにだまされた」
「緋天さんを」
「全力をかけて!」
「振り向かせてみせます!!」
「「「「「っしゃあ!!」」」」」
口々に言葉を出して、それぞれの武器を輪になって空にかざしていた。その彼等の姿は、緋天が好きだと言って一緒に観た映画の、正義の味方のようで。正直、緋天がどんな反応をしているかやけに気になった。後ろを振り向くと、頬に手を当てた緋天が微笑んで彼らを見ているのが目に入る。
「おーっと。これは何と言いますか、異様なやる気を感じます。蒼羽君がまるで悪の親玉みたいですねぇ。あ、そちらのお2人、どうぞ」
「オレは予報士を倒してみせるぜ!!ついでにあの娘も手に入っていい事ずくめだな!!何させよーか。あー、たまんねぇ」
「・・・私はあちらのお嬢さんに興味ないが、予報士の力に興味がある」
「こらこら、だから勝ったとしても、強引に手に入れたりはできない、って言ってんだろ!?それにそういう事言うと、蒼羽が怒るぜー。あ。もう切れかけてんな、これ」
下品な笑いを浮かべた男が、緋天に視線を向けたので、苛ついた気分になる。
「・・・決めた。お前が一番だ」
「ほらなー。お前覚悟した方がいいぜ。んじゃあ、野郎共、準備はいいか?ちょっと位、根性見せろよー!」
こんなに楽しい見世物はない、と笑ってから、フェンネルが少し離れて行く。観客への対応を忘れて、本気で楽しんでいるのが本来の口調に戻った様子から判った。
「全員構えて・・・始め!!」
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