夏の終わりに恋人祭り 6
「どこの王様よ、あんたは!?」
金色の長い髪を風になびかせて、女性が近付いてくる。
明らかに腹を立ててこちらに向かう彼女に、なぜか小さい頃に大人に怒られている気分を思い出した。
「一体、何を企んでるの?さあ、早く吐きなさい!!」
「・・・ヴィオラン」
「姉上・・・」
同時にため息をついて、蒼羽とベリルが口々に言う。
「え・・・?じゃあ、ベリルさんのお姉さんですか・・・?」
蒼羽が堂々と宣言をした後、この勝手な行動を面白がったフェンネルを始めとする実行委員が、ステージ上の端に蒼羽とベリルと自分の3人分の席を特別に用意した。ぼんやりと、2戦目の、他のカップルに横槍を入れる戦いを眺めていたら、この女性が関係者以外は入ってこれないはずの、ここへとやってきたのである。
「んん?あら、やだ、ごめんなさい。あなたもいたんだったわ」
にっこりと、ベリルに似た笑みを自分に向けて彼女は言う。
「初めまして、緋天ちゃん。お話は色々聞いてるのよ。私はヴィオラン。この、悪だくみの大好きなベリルの姉で、今はさっきの偉そうな蒼羽を見て、顔から火が出るかと思う位恥ずかしかったから、一発叩きに来たの。ちょっと、失礼」
そう言うとにこやかな笑顔のまま、ぱしん、と蒼羽の頭をはたく。
「え、あ、蒼羽さん」
蒼羽ならよけられるはずなのに。黙ってそれを受ける姿にびっくりする。
「蒼羽、あんたね、この子の気持ち考えなさい。いくら見せつける為だからってやりすぎよ。確かにこれで緋天ちゃんへ向けられる面倒ないざこざはなくなるでしょうね。だけど、あんたを好きな女の子が、卑怯な手を使ったらどうするのよ?」
「なんだ、姉上。今日のこのイベントの目的、ちゃんと判ってるじゃないですか。さすが。鋭いですね」
ベリルが苦笑しながら立ち上がり、ヴィオランの頬にキスを落とす。
「私を何だと思ってるの?あんたの企みなんてお見通しよ。全く。まあいいわ。うまく行けば許してあげる。あー、もう!!初対面がこんなじゃ印象悪いわ、私。緋天ちゃん、気にしないでくれる?」
「え・・・あ、はい」
もう何が何だか判らないままうなずくと、ヴィオランは蒼羽に視線を落とした。
「さあ、蒼羽。私は緋天ちゃんをもっとよく見たいの。あなたに抱えられた状態じゃ、満足に話もできないわ。そのマント取って」
「嫌だ。他の奴らに見せたくない」
さっきからずっと。蒼羽のマントに包まれたままで。引き寄せられたまま椅子に座っていた。
「蒼羽さん」
確かにこの状態は、初めて会った相手に対してとても失礼な気がして。
しかもその相手はベリルの姉で。蒼羽を見上げて困った顔をして見せると、ゆるゆるとその腕の力が弱まった。立ち上がって頭を下げる。
「えっと。初めまして。河野緋天です。よろしくお願いします」
「まぁ・・・。緋天ちゃん、すごいわ。今、蒼羽が普通の人間っぽく見えた。蒼羽が生まれ変わったみたい・・・」
「あはは。うまい事言うね、姉上。正にその通り」
「これは現実かしら?それに、緋天ちゃん、あなた、とってもいい子ね。ありがとう」
いきなりぎゅう、と抱きしめられる。その腕の中は暖かくて、柔らかい空気に満たされた。
「・・・もういいだろ」
後ろから声がかかって、振り向けば蒼羽が立ち上がっていた。
「緋天」
ヴィオランの腕から解放されて、今度は背中から蒼羽の腕が回る。ばさ、とマントがさばかれて、元の位置に収まった。
「あら・・・やーね、独占欲丸出しじゃないの」
「いつもこんな感じですよ。まあ、今はこのままで。一種の演出ですから。緋天ちゃんも、後少し我慢しててね」
「???」
「全部終わったら、後で説明する。だから、ここにいてくれ」
蒼羽の声が耳の後ろで響く。それは心地良すぎて、大人しく椅子に座り直す事しかできなかった。
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