同窓会 2

 

きゃあ、とはしゃいだ悲鳴が店の片隅、一階の窓辺で上がる。

「か、っこいいー・・・」

窓の外、駐車場に停められた銀色の車を見て、成田がため息をついた。

「げぇ、マジでマサの言った通りになったよ!」

右隣で山岸が少し怒ったような、そんな顔で叫ぶ。

「知樹うるさい。ほら、あの人。こっち睨んでる。やっぱりあの時、僕達が緋天さんと話してた事覚えてるんだよ」

 窓の向こう、車の前で。緋天の手をつかんだ蒼羽が、彼女の肩越しから敵意の視線を自分達の方に向けていた。その眼差しは、一歩間違えれば凶悪犯のそれと変わらないように見える。ただ、その手は優しく彼女に触れているから。

「なんか。緋天ちゃん、大事に守られてるー、って感じだね!!」

 うっとりとした目をして、細川がうれしそうに窓の外を眺める。

「おいおいおいおい!お前ら、あれを見て何でそんな落ち着いてんだよ? 怖えーよ、マジで。ってか何であんな堂々とちゅうなんかしてんだよ!マナーってもんがあるだろうが!」

「いいじゃん。かっこいいし。なんか自然で素敵ー」

 成田の言葉に細川がうなずく。

 正直、そうやって我が物顔で彼女に触れる蒼羽はあまり見たくはないのだが。否、見たくないのは触れらている緋天だろうか。

「うんうん。それにさ、睨まれるような事したの、あんただけだよ。緋天ちゃんの髪触ってたでしょ、山岸。あれはマズかったね。おとなしくぼこられてきなよ。うー、でも怒った顔もかっこいいー」

「それにお前がマナーなんて言い出すなって。あ、緋天さんこっち来るよ。僕、迎えに行こうっと」

 一番に彼女を出迎える特権は、自分のもの。

 少し染まったその頬はあまり見ないようにして、平静を装う。

「あ、あたしもー。ってか、あんたたち、はしゃぎすぎ。ま、無理もないか。あんなカッコいい人、めったにいないよねぇ」

 一緒に窓の外のキスシーンを目撃した、男女数人に目を向けて細川が苦笑した。

 

 

 

 

「緋天さん」

「あ、木下君。久しぶりー」

 店に入るなり、委員長が出迎えた。それに続いて細川が顔を見せる。

「緋天ちゃーん。見ちゃったよー。あの人、この間の上司って言ってた人でしょ?木下がねー、うまくいってたら、今日絶対緋天ちゃんの事、ボディーガードが送ってくるはずだからーって。もうだいぶ前からそう言ってたんだよ」

 いきなり蒼羽の事を持ち出されて顔が熱くなる。

 しかも、全く無関係の木下の推論はどこから導き出されたのだろう。

「な、んでー?どういう事?」

「まあまあ。それは後でゆっくり話すよ。もうほとんど集まっててさ。あと2,3人来たら始めるから。それまで、あの人達の質問攻めにうまく答えてて」

 にやにや笑いながら、委員長が店の中を指し示す。こんな笑い方をするような人だったろうか、と記憶の中の彼を探って、すぐにやめた。自分に向かってくる数人を目にして。先程の蒼羽とのやりとりを見られていた事に思い当たって、恥ずかしさに目がくらんだ。

「え!? あー、やだー・・・どうしよう」

 あっという間に数人のクラスメイトに囲まれて。矢継ぎ早に質問をぶつけられる。

「緋天!あの人誰?すっごいカッコよかったよ!?モデル?」

「っつーか、なんかすげー河野変わってねえ?マジかわいーって」

「やーん。本当、緋天ちゃんかわいー。で?あのカッコいい人彼氏だよね!!ちゅうしてたの見たよ!」

 わいのわいの。

 それぞれの言葉を聞き取れないほど、全員が一度に言葉を吐いて。

 何故かぺたぺたと、体を触られる。

「うわ!女子同士だからって調子乗んな!オレも触りてー」

「っるさい。女の子の特権ですー。緋天ちゃん、相変わらず細いねぇ。うーん、お肌すべすべ」

「ちょ、奈美ちゃ、何で触るの?」

「姐貴。手がいやらしーっす・・・」

「んふふー。あー、腰も細いねぇ。こりゃ、あの人もたまりませんなー」

 さわさわと腰をなでる手。

「ん、ちょっと、やぁ。くすぐったいー」

「おお、かわいい反応を。ウハウハだね、あのクールガイは」

「っがー!!もう見てられん!姐さん、オレを弟子にして下さい!!」

「あー、私も触りたい。まぜてまぜて。こら!どさくさに紛れて。男は禁止!あのかっちょいい彼氏に殴られたい!?」

「うにゃ、大石さんまで、や、くすぐったいってばぁ」

 身をよじれば、それをすぐ傍に立つ女子が押さえて。その更に向こう側では、妙な目をした男子が囲む。

「ほらほらー。さっきのかっこいい彼氏はどこの誰かなー?」

「吐かないと、もっと触るよう?」

「こーんなかわいい緋天ちゃんを好き放題できるなんてねぇ」

「・・・どうでもいいけど、奈美、あんたオヤジくさい」

「だーって。あの冷静そうな顔が、緋天ちゃんの前ではきっとにやにやするんだよ?」

「うーん。確かに。男って・・・」

 数名の女子からじっとりした視線を向けられた男子の1人が慌てる。

「好き放題、河野の事触りまくってそういう事言うなよ!だー、もう!あいつが羨ましい・・・!」

 

 こんなに大勢に囲まれて、そして半ば自分を無視して会話を繰り広げられるのは初めてだと思う。あまりにも居心地の悪い空間に、ほんの少し帰りたくなってしまったその時。

 

「こらー!!!そこの無礼者!私の緋天に何してんのよー!!」

 

 聞こえてきたのは、京子の頼もしい声。

「あー、京ちゃん!!助けてー」

「ちっ。京子に見つかった。仕方ないな。ここまでにするか。ずらかるわよ」

「「「へーい」」」

 さかさかと男女の波が引いて行く。

 その素早さがまるでゴキブリみたいだ、と思ったけれど、さすがに口にはしなかった。

「全くぅ。蒼羽さんに送ってもらったんだって?なんかすごい話題になってるよ」

「うー。やっぱり・・・」

「あんなカッコいいの見たら誰だって騒ぐって。あ、みんな揃ったみたいだね、木下が呼んでるよ」

「えーっと。とりあえず、みんな集まったみたいなので。始めたいと思います。まずは先生が出席を取るので、返事して下さい」

 

 

 

 

 懐かしい顔ぶれに次々と声を掛けられて。

 聞かれるのは蒼羽の事。

「なんでみんな、そんなに蒼羽さんの事ばっかり聞くのー?」

 アルコール度数5%のサワーを3杯目に入った時点で、自分でも顔が火照っているのが良く判る。今は本当に仲の良かった友達3人と、2階

のテラスでテーブルを囲んでいた。

「あ、の、ねー、緋天。良く聞きなさい!何で?って言いたいのはこっちの方なの!!私と美佳は、今日ここに来てさ、初めて。他のみんなが騒

いでて初めて、緋天の彼氏の存在を知ったんだよ!?これは一体どういう事なの???」

 怒った顔でこちらを見つめてくる、友達2人。

「うー・・・ごめん。なんかね、本当、色々大変な事が続いて、報告する時間がなかったの・・・」

 目まぐるしかった日々が続いてたのは真実。

全てを話すことはできないことも裏側に含め、素直に謝ると、美佳が笑う。

「あー、判ったよー、もういいって。そんな顔しないでよ。綾もさ、ほら。緋天が大変って言うんだから、多分本当に大変だったんだよね」

「・・・ぬぅ。しょうがないなー、もう。でも、京ちゃんだけ知ってたのって、なんかずるくない?」

「うわ、私に矛先を向けないでよ。ほらほら、蒼羽さんの事を緋天に根掘り葉掘り聞くんでしょ?」

 京子がそう切り返すと、綾と美佳の顔に笑顔が浮かぶ。

「そうなのよ!!よーし、緋天、覚悟してよ!他の野次馬連中と、私達は追求する内容は違うんだからねー」

「う・・・」

 

身を乗り出す彼女に、何か言い知れないパワーを感じて、こちらは逆に身を引く。

 ふわりと頬をなでる夜風に、蒼羽が呆れそうなことを言ってしまっても、酔っているせいにしてしまおう、とそう思った。

 

 

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