6.

 

「どうするんだ?」

 ぬれた服を着替えた蒼羽が、ワイン色の髪を拭きながら2階から降りてきた。

カウンターの中で卵を溶きながら、目を細める。

「どうするって・・・。一応センターには報告しないとな。こんな事、前例がないからどうなるか判らないけど。その前にあのお嬢さんに状況を説明して、原因も調べたいし。・・・まあ、とっ捕まえてどうこうするって事はないと思うから、安心しろ」

 カウンターのいすに座って、蒼羽は眉間にしわを寄せた。

「別にあの女の心配なんてしてないけど」

低く言い放つ蒼羽を軽く睨んで口を開く。

「そういう言い方はやめろと言ってるだろう?第一あの娘は何かに巻き込まれただけだ。何もしてな、」

「笑ってたんだ」

 自分の言葉をさえぎって、蒼羽は緋天の腕をつかんでいた左手に目

を落とす。

「ずぶぬれになって笑ってたから、狂ってると思ったんだ・・・」

「・・・・・・あのお嬢さんは表の人間なんだろう?」

「そうだ。俺の事を警察と勘違いして、自分の住所をべらべらしゃべっていたからな」

 蒼羽は口角を少し上げて、皮肉げに笑った。それが胸の内のどこかを焼いて。彼のそんな口調が悲しかった。溜息をついて蒼羽を見下ろす。もう一度、注意を口にしようと少し厳しい声を出した。

「・・・蒼羽」

 

 

とん、とん、とゆっくり階段を降りる足音が聞こえて、言いかけた言葉を飲みこむ。カウンター横の扉を開けて、緋天が顔をのぞかせた。

「あの、お風呂ありがとうございました」

「どういたしまして。さ、蒼羽の隣にどうぞ」

にっこり笑って席をすすめる。毒気を殺がれた。

 自分の笑みに恥ずかしそうに笑い返して彼女はいすに座った。

「お腹すいてない?ちょっと待ってて。もうすぐ出来るから。スペシャルオムライス」

そう言いながら、卵をフライパンに落として、ジュワーと音をたてる。

「え?お昼ご飯まで頂いていいんですか?ここお店ですよね?」

「んー、・・・あー、今日はもう誰も来ないからいいよ。長い話の前に腹ごしらえしよう」

 

 

 大きめの皿にのせたオムライスを緋天と蒼羽の前に置く。緋天は“4649緋天ちゃん”とケチャップで書かれたオムライスを見て笑った。

「この部分がスペシャルなんですね?あっ、蒼羽さんのには何て書いてあるんですか?」

緋天は自分の左に座った蒼羽の前の皿をのぞきこんだ。近づいた緋天から少し体をそらして、“へたれ蒼羽”と書かれたオムライスを目にする。苦笑しながらこちらを見る彼女に、蒼羽はそっぽを向いた。

「えぇ?ベリルさんー、これ」

 ベリルは自分の皿を持って笑いながら緋天の右側に座る。

「面白いでしょ?ここのオムライスはその人の特徴が書かれてるのが評判なんだよ。ベリルスペシャル。さあ、食べよう」

「はーい。いただきます」

手をぱちんと合わせて言った緋天を見て、少し驚いた。

「最近の子にしては珍しいね、緋天ちゃん。誰かさんにも教えてやってよ」

 同じように驚いた顔をした蒼羽と目を合わせて笑う。それにむっとした顔をし、蒼羽は手にしたスプーンと皿を見下ろして言った。

「・・・もう食べ始めてるから無理だ」

 

       

その言葉に吹き出してしばらく笑いが治まらなかった。

異常な状況でも、彼がそうやって反応をしてくれた事が嬉しくて。

 

       

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