5.
何やら変な事になっている。
暖かいシャワーを浴びながら思う。ずぶぬれの格好を見て、お風呂を貸してくれた。見ず知らずの人間にそこまで親切にするのは、最近では珍しいけれど。
そうではなくて、あの2人の驚き方がおかしい、と感じた。
蒼羽が、自分に問いかけた時。ベリルが、蒼羽に問いかけた時。2人とも同じ種類の空気をまとって、自分を見ていた。
例えば、仲のいい何人かで誰かの噂をしていた時に、その本人が現れたり。性質の悪い不良と一緒に、クラス一の秀才が悪さをしているのを目撃したり。そういう種類の驚き方だ。信じられない、ありえない。そう思って目をみはる。相手をまじまじと見つめる。
話とは何の事だろう。
―――時間はある?話したい事があるんだ。ちょっと長くなりそうなんだけどね。用事とか約束とか何かあるのかな?
タオルを渡しながら困ったように笑って、ベリルがそう言った。本当に困った顔だったから、断れなかった。もともと暇だったから時間も気にしない。
変な人だったらどうしよう。一瞬そんな考えがよぎった。けれどもベリルも蒼羽もそんな人には見えなくて。
きれいな金髪に青い目。アイロンのかかった白いシャツと黒のズボン。その上から長い黒のエプロンをつけていたベリルは、自分にいい印象を与えていた。
その姿はまるで“ソムリエ”のようだ。思いきり外人だから映画の中の俳優にも思えてしまう。自分の兄よりも年上に見えた。にこにこと笑って話すので、こちらとしては緊張がほぐれたのだけれど。
その逆に笑わない蒼羽が少し怖く思えた。自分の腕を強く引っ張って、強引にここへと連れてきた行動に驚く反面、向けられた冷たい視線が痛くて。それでもやはり悪い人には見えない。黒の皮のパンツと、グレイのニットを着た蒼羽が、とても趣味よく映る。そんな事で警戒心というものは薄れてしまうのだ。
「っくしゅ」
また自分のくしゃみに自分で驚く。いつのまにか考えをまとめるのに集中してかなり時間がたっていた。
もう出よう、と。がらら、と音をたてて半透明のガラス扉を開ける。乾燥機をそっと開けるとちゃんと服が乾いていた。自分の家には乾燥機がないから、こんなに短時間で乾くのは便利だな、とぼんやり思う。
ドライヤーで手早く髪を乾かしながら、自分の肩掛けバックに入れていたくしを取り出す。洗面台の鏡の前で、左眼の上部分に分け目を入れる。髪の先に向かってくしを動かしてから、鏡の中に笑ってみせる。
「よし、オッケー」
少し頬をたたいて、気合を入れた。
気合を入れないと階下の2人の話を聞けないような気がした。
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