4.

 

「ベリル!!」

少女の腕を引っ張って、いつもなら自分1人が通る木枠で囲まれたガラスのドアを開けて大声を出した。

 床一面磨かれたフローリング。左手にちいさなカウンター、右手に大きなソファが3つ、コの字型にテレビに向かって配置されていた。いつもの通り、変わらない。何も変わりはない。

「どうした?大声を出すなんて珍しい・・・っと、そのお嬢さんは?センターから見学の知らせなんて来てたか?」

 カウンターの中を掃除していた、金髪の男が振り返ってまず自分を見て少し驚き、少女に視線を移した。

「違う」

 きっぱりとした口調で彼を見て言う。左手はまだ少女の腕をつかんで離さない。離せばこの異常な状況が余計に悪化しそうだった。

「外で、そこの通りで雨の中にいた。表の人間だ」

 意を決して吐き出したその言葉に、彼は青い目を見開いて少女を見つめた。つられて横を見れば、彼女は間の抜けた顔で金髪の彼を見上げて、それから自分の腕に視線を落とした。

「・・・蒼羽、冗談じゃ・・・・・・ないよねぇ」

 ふ、と溜息をついて、彼が自分を信じようとしないので、苛々したまま睨むように見返せば。ベリルは苦笑した後、真顔に戻る。そしてまた目をみはって少女を見つめた。

 

「っくしゅ!!」

 ふいに奇妙な沈黙が途切れた。彼女は自分で自分のくしゃみに驚いて慌てながら口を開く。

「す、すいません。えーと、なんだかよく判らないんですけど・・・何かあったんですか?」

 我に返ったベリルが少女のぬれた格好を見て笑う。

「とりあえず。そうだ、お嬢さんは風呂だな。風邪をひいてしまう。こっちへおいで。蒼羽、お前も着替えないと」

「え?いや、そんなご迷惑じゃないですか?」

更に慌てながら少女はベリルを見上げた。

「君に風邪をひかれたんじゃ後味が悪いよ」

そう言ってカウンターの隣のドアを開けて、その奥の階段を示してから彼女を促す。そして彼女は少しはにかんでから、引き寄せられるように歩きだした。

ずっと掴んでいた細い腕を離してから、カウンターの椅子に座る。手を離した自分を振り返ってから階段に向かって歩く少女の背中を見て、ため息をついた。

 

「私はベリル、あの無愛想が蒼羽だ」

ドアの向こうで自己紹介をするベリルの声が聞こえた。

「ソウウ、さん?変わったお名前ですね」

「蒼い羽と書くんだ」

「わあ、かっこいいー。あ、あたしは河野緋天です。コウノはさんずいの河に、野原の野で。ヒテンは緋色の緋に、天国の天です」

「緋天?お嬢さんもじゅうぶん珍しいよ。きれいな名前だね。あ、お風呂はここだよ。服はここにいれてくれればすぐ乾くから。乾燥機だよ。20分位かな。そう、このボタン押してね。え?うらやましい?でも洗濯物は太陽の下で干した方が絶対いいよ。ドライヤーはね、ここ。タオ

ルはこれ使って・・・」

 

「・・・緋天」

無意識に2人の声に耳をすませて、訳もなく、その音を紡いだ。

 

 

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