42.

 

「蒼羽、さん」

 その声に草の中から跳ね起きた。足元に緋天が立っている。

「・・・あの」

 

困ったように言いよどむ、その顔が、あまりに愛しくて。

緋天の細い手を引っ張った。

 

「うわっ!・・・え?」

 状況についていけずに、疑問の声を上げる。

「蒼羽、さん、ちょっ、これ」

 あわてる彼女を腕に抱きしめて、その感触を楽しんだ。

体の内側に甘い疼きが生まれて、苦しいほど、切ない。

 ふいに、緋天が体の力を抜いて。

それが嬉しくて、さらに抱きしめる。

 

 

 

 

「・・・緋天」

 蒼羽が自分の名前を呼んで、首筋に顔をうずめた。彼は何かを伝えようとしている、と思って、黙ったままでいる。

 

「・・・緋天」

 そう、耳元でささやいて。右耳を甘噛みされた。

 ぞく、と。その感触に肌が粟立つ。

途方のない甘いしびれが体を巡った。

 

「緋天。・・・好きだ」

 その言葉に、声に、心地よすぎて、目眩がした。

 

 

 

 

抱きしめたまま、彼女が暴れもせずに、黙ったままだったので。

自然と言葉が出てきた。愛しくてたまらないのだと、伝えたかった。

  

「な、んで、先に言っちゃうんですか、ずるい」

緋天が少し身を引き、頬を染めて、目を潤ませて。自分を見上げる。

「あたしも、言いたかったのに」

 極上の笑みで。微笑んで。

「あたしも、蒼羽さんが、好き、です」

 

 

 

 

驚いた顔をして。自分を見て。また抱きしめられる。

「そうか」

 そう言って、誰も見た事のない、笑顔を浮かべて。

 それに見とれている内に。

 

柔らかく微笑んだ彼は、キスを落とした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・あの、蒼羽さん」

「ん」

 腕に抱いたまま、彼女の髪に口付ける。

 首をすくませた緋天が小さな声を発した。

「えっと、幸せすぎて、心臓が破裂しそうなので、別の話、しません?」

 真っ赤な顔をした彼女の必死な顔に、苦笑がもれた。

「・・・えっと、あの、あ、そうだ!何か欲しい物、思いつきました?」

「もう、手に入ったから、いい」

 欲しくて欲しくてたまらなかったもの。

たった今、その緋天が手に入ったのだ。

これ以上、何を望めばいいのだろう。眉をしかめる彼女の柔らかな唇に口付ける。甘い感触が体を巡った。

「・・・ん。じゃなくって。それじゃ困るんですけど・・・」

「・・・じゃあ、そうだな。ちょっと、俺の名前呼んでみろ」

 本当に困った顔をする緋天に、思いついて言ってみる。

「???蒼羽さん?」

「そうじゃなくて。呼び捨てで」

「ええ?・・・蒼羽。・・・さん。やっぱダメですよう。蒼羽さんは蒼羽さんなんです」

「じゃあ、敬語、やめろ。普通に話せ」

「・・・はい。じゃなくて、うん。ってこれがプレゼントでいいんですか?じゃなくて、いいの?」

「いい。充分だ」

 本当のところ、次に欲するものは彼女自身なのだけれど。それはキスを落としただけで真っ赤になる、純粋な緋天を混乱させてしまいそうで。せっかく手に入れた彼女に怯えて欲しくなかった。

「うーん、何かあげたいのにな・・・。じゃあ、いいや。頑張って、何か探す」

「ん。・・・帰るか?」

「あ、そうだ、ベリルさんにバレてるんだったー。あぁ、もう。恥ずかしい・・・」

 

 立ち上がりながら、緋天の腰を引き上げる。

そのまま手をつないでベースに戻ると、ベリルがにこにこ笑いながら、門番と一緒に待っていた。

 

「おめでとー!!良かったねー、上手くまとまったみたいで」

「おめでとうございまーす!」

「・・・何で・・・」

「あぁぁ。穴があったら入りたいぃ」

 

 

「何言ってるの、緋天ちゃん。ここはもう、穴の中だよ」

 頭を抱えてしゃがみこむ緋天に、ベリルが明るく答えた。

                     

                                  END

 

      小説目次     

 

 

 

 

 

 

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