40.

 

フェンネルはうれしそうに笑って、続ける。

「同じ人間なんだ、って。クールな振りをして、実は淋しかったんだ、って思って。そしたら、めちゃくちゃ後悔してさ。かなりひどい事をしてたから。あまりにもひどすぎて言えないんだけど。泣きじゃくりながら、あいつに謝ったら、何て言ったと思う?」

 きっと彼は、そんな事はどうでも良いと思っていたのだ。少なくとも、表面上は。

「・・・気にするな、ですか?」

「うん。ちょっと笑いながら、気にするな、お前が謝るな、って言って、また無表情に戻ったんだ。その態度を見たら、無性に切なくて。それから蒼羽につきまとう事にしたんだ」

「じゃあ、その時から友達なんですねー。楽しそう」

「あいつは変わらず無愛想なままだけどね。でもさ、オレの言う事を無視しないで聞いてたり。蒼羽を始めっから避けてる奴らには判らないだろうけど。あいつとちゃんと向き合ったら、その相手には蒼羽もしっかり答えてくれるんだよ」

 自分を笑いながらのぞき込んで、フェンネルはさらに続ける。

「でもさ、やっぱり、たまにだけど、他の奴に対してはすげえ冷たい目とかする時あるし、時間かけないと、あいつは心を開かない」

 

「そうですよね・・・あたしも始め、蒼羽さんの事怖かったです」

 少し笑って本音をこぼすと。彼も苦笑してみせた。

「でもね、本当は色々な事、頭の中で考えて行動してて。しかも、それ正しい事で。それに周りにいる人の事、いつも気遣ってる。・・・本当にすーごい優しいんですよ」

「それだよ、それ!!蒼羽のヤツ、緋天ちゃんに対してはさ、短時間で心を開いてるし。しかもオレやベリルさんにはしない、気遣いとか優しさ?みたいなの見せるし。まあヤローには必要ないからかもしれないけど・・・」

 フェンネルが髪をいじりながら首をひねって。

「あー、とにかくさ。本当、こんな蒼羽初めてでさ。オレらびっくりしてんだよ。だから、これからも蒼羽と仲良くしてやってよ。これだけ言いたくてさ」

 一瞬。

真面目な顔をして、自分を見た。

「・・・はい。・・・あたしも蒼羽さんと早く仲良くなりたいですよ?フェンさんと蒼羽さんみたいに」

 

 

「この話をしたのは内緒にしといて。なんか言われそうだし。さ、着いたよ。ちょっと模様とかさー、見てくれない?もっとかわいくしたいんだけど、どうかな?」

 いつのまにかアクセサリーの並べられたテントの前にいて。じっくり眺める。どれもシンプルな作りで、自分の目にはどれもそれで充分に思えた。

「ええ?あたしはこれ、いいと思うんですけど。充分かわいいですよー」

「そう?なんか男が買う方が多いんだよねー。もっと女の子に来て欲しいのにさー。はあぁ」

 

 

 

 

  草原の中を歩きながら、緋天がぽつり、と言葉を落とした。レンガ作りの建物がもう目の前に見えている。

 

「蒼羽さん」

「ん?」

「あのね、昨日、あたし、前のバイト先に謝りに行ったんですよ」

 緋天は立ち止まって言う。それに気付いてこちらも足を止めた。

「何も判ってなかったのに、いきなり辞めてごめんなさい、って言ったら。店長がね。日曜だからすっごい忙しいのに、休憩室に連れて行ってくれて」

 うつむいて、彼女は言葉を続ける。

「それで。それで、『あの時は僕も悪かったよ、ごめん』って逆に謝られて。店長と、デパートの支店長に怒られた時に、事務室にいたんですよ。あたし達は、テナントの人間で。周りは全員、デパートの社員で。支店長の前で、店長があたしを庇ったら、これからの仕事に支障が出るから、ってそう思って。厳しくあたしを叱ったんだ、って・・・。『嫌な思いしたでしょ、本当にごめんね』って店長が。大人なのに、あたしに、頭、下げてくれて」

 

視線をいつまでも下に向けたまま、緋天が小さい声で言うので。泣いているのかと思って、手を伸ばそうとした。

「本当にあたし、何も判ってなかったんだ、って思ったら。店長が『わざわざ来てくれてありがとう』って言うんです。人に教えられてやっと判ったんです、って言ったら。『じゃあ、それを教えてくれた人はすごいなー』って。あたし、それが、すーごくうれしかったです」

 顔を上げて、笑って、自分を見る。

その笑顔にどこかほっとした。

  

緋天の髪が傾きかけた日に光って、とてもきれいだと、心から思う。

つややかな黒髪が明るい茶色に透けていて。

「髪。染めないのか?」

「え?・・・えっと、別に必要ないですし」

「お前の年代のアウトサイドはみんな染めてる」

「うーん。でも、なんて言うか、自分の髪の色、嫌いじゃないですから」

「ん。・・・きれいだ」

 

 左手が、自然と緋天の肩口におりた髪に伸びる。

そのまま、一房を手につかんで、そっと持ち上げた。

 

 

不思議と心は落ち着いていて。

緋天の目を見ながら、そのきれいな髪に口付けた。

 

 

「そ、蒼羽さん・・・?」

 気付いたら、緋天が驚いた顔で自分を見ていた。

拒否をされていないという事実は嬉しかったが、これ以上彼女の傍にいるのは今は痛かった。緋天から離れる。

「・・・悪い。先に帰ってろ」

 

 

     小説目次    

 

 

 

 

 

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送