38.
草原に明るい歌声が響く。
相方がその声に気付いて、横にいる自分をつつく。
「来たぞ。オレ、息臭くないよな?」
「お前は異様に気にしすぎだよ・・・」
「・・・貸してーあげましょー、森へのパスポートー、ふーしーぎーな冒険はじまるーーー。となりの・・・」
「緋天さん、今日はご機嫌ですねぇ。元気になって良かった」
「あ、こんにちは。ってあれ?何であたしの名前知ってるんですか?」
緋天は不思議な顔をして、声をかけた自分を見る。一拍置いて、彼女は声を上げた。
「ああ!確かベリルさんを呼びに行ってくれたんですよね!あの時はお世話になりました」
にこにこして頭を下げる緋天を見て、不思議と楽しい気分になる。
「どういたしまして。さあ、どうぞ」
「ありがとうございます。じゃあ、失礼します」
彼女の背中が見えなくなるまで、ぼんやり見送って。しばらくすると、相方が恨みがましいとも言える目で自分を見ていた。
「なーんでお前ばっかり、しゃべってんだよう。オレ、楽しみにしてたのにぃぃぃ」
「そう思うなら、話しかけろよ。ったく。でもおれは、蒼羽さんが・・・」
「またそれかよ?本当にあの人がそんな顔したのかー?」
「本当だってば」
一向に自分の言う事を信じようとしない彼に少々腹が立って。言い合いを始めようかという瞬間、冷たい声がかかった。
「おい」
「うわ!蒼羽さん。すすす、すみません。オレまだ何もしてないっス」
「あいつは?」
無表情で問いかける蒼羽に、相方はかわいそうな位にびくつく。
「緋天さんなら、さっき通ったばっかりですよ。今なら追いつきます」
「そうか」
そう言って門を通り抜けて、蒼羽はびくつく彼に声をかける。
「お前、手、出すなよ」
悠々と歩く蒼羽の背中を見送って、得意げな気分になった。
「ほらなー、言っただろ?蒼羽さんがガードしてるから無理だって」
「・・・誰も覚えていーない。人は空ばーかり見ーてるぅー、つーば」
「おい」
センターが前方に見えた所で、後ろから声をかけられた。険しい顔で歌に没頭していたので、驚いて飛び上がる。
「うわっ。蒼羽さん!?どうしたんですか?すごい盛り上がってたからびっくりしましたよぅ・・・」
「・・・センターに用事」
蒼羽が横に並びながら、言う。その手にはA4サイズの封筒。
「ああ、書類を届けに?」
「ん。・・・あと、害虫駆除」
「えええ!?何ですか?それ。あそこって虫がいっぱいいるんですか?なんか、行くの嫌だなぁ。ゴキブリとか出たらどうしよう」
センターはそれほど汚くは思えないのだが、ゴキブリ達はものすごい勢いで繁殖するもの。どんな所にも出没するのだ。思わず顔をしかめる。
「大丈夫だ。今日でほとんどいなくなるから」
優しい声で蒼羽がなだめる。見上げたその目も優しかった。途端に安心してしまう。
「良かったー。頑張って下さいね!!蒼羽さん」
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