32.

 

「落ち着いて。土曜日何があったか、ゆっくり話して」

 

 優しい声に促され。土曜日の行動を、全て話す。

午前中は普通に話していた事。お昼を食べに、ベースに戻ろうとして、高校の同級生に会った事。その場で話し込んで、蒼羽を怒らせてしまった事。追いかけようとしたら、貧血で倒れて、目が覚めたら、蒼羽はまた普通に接してくれた事。

 

 

 

 

「蒼羽さんを怒らせてしまった事は判ってるんですけど。その後普通にしてくれたから。自分が恥ずかしくて。あたしは子供なんだ、って思い知りました・・・」

 悲しそうに笑う緋天は、とても痛々しく。それでも彼女の行動がその言葉通り、蒼羽を腹立たせるという事はないと悟る。

「うーん。その話だと、何も問題はないはずなのになぁ。蒼羽は何を気にしているんだか・・・」

「え?何かあったんですか?」

 あれだけ異様に自分を責めていたのだ。緋天の知らないところで何かあったのだろうか。

「あいつ、何か、緋天ちゃんを怪我させた、とか、その事以外に、何かを気にしてるんだ。私にも言ってない」

「・・・それは、あたしに対して何か怒ってるんです」

「それだよ!!私には、蒼羽は別に緋天ちゃんに怒ってるようには見えないんだ。でも君の話だと、怒ってるように見えた。蒼羽が君を置いて先に歩き出したのは、緋天ちゃんが同級生と話してた時。その時すでに何かが蒼羽の中で気になっていたとしたら。そうだ、話の内容が原因だ」

  

「何を話していたか、思い出してくれる?」

「え?始め、声かけられて。久しぶりだね、って」

「次は?」

「えっと・・・山岸君が、あたしが高校の時より、だいぶ変わったって言い出して。髪が伸びたね、って言って髪を触ったから、委員長の・・・えっと、木下君と細川さんが山岸君に注意して。あれ?何でだろ?」

「緋天ちゃん・・・嫌じゃなかったの?」

「え?別に変なおじさんとかじゃないし。クラスメートですよ?」

 根本的なその同級生の目的を理解していない彼女は純粋すぎて。苦笑するそれが、まぶしかった。

「・・・じゃあその次は?」

「えーっと。成田さんが蒼羽さんを見て彼氏なの?って聞いて。見たら10メートル位離れてて、それであわてて追いかけたんです。そうだ、離れてたから話の内容は蒼羽さんに聞こえてないですよ」

「話は聞こえてない、か・・・」

「やっぱり話し込んでた事に怒ったのかなぁ・・・」

 顔をくもらせてうつむく緋天は弱々しい。

「いや、だから、蒼羽は緋天ちゃんには怒ってないってば・・・・・・何か別の・・・あああ!!そうか、判ったぞ!!」

話をしているのを見ておかしくなって、緋天には怒ってなくて、でもやはりその話に関係がある。単純に考えていたらすぐに思いつける事なのに。関る人間が蒼羽というだけで、どうしてもそんな世俗的な考えから遠ざかってしまっていた。

「え!!何ですか?」

「うーん。ごめん。教えられない」

「ええ?何でですか?」

「変な行動の理由は判ったけど、蒼羽が気にしてる事はまだ判らないんだ。でもだいたい、あいつが考えているラインは見えた。今日話をしてみるから。緋天ちゃんは、とりあえず気にしなくていいよ」

 久しぶりに明るい気分を感じて、こんな嬉しい事を自分だけが知っていてもいいのだろうかと思う。 

 

「君が自分を子供だと思うなら。今はまだそのままでいいんだ。無理して、自分が思った事と違う行動をしたり、我慢して違う選択を取ったり。そんな事はしなくていい。その場その場で正しいと思う事をして。後から間違えてた、って気付いたり、反省する事も多いかもしれないけど。それはそれで勉強になるから。いい加減な事をしたりしなければ、誰も責めたりしない。暖かく見守ってくれる。判った?」

「・・・はい」

 本当は落ち込む彼女の手を取って、感謝の言葉を述べたいのだけれど。そんな事をしても緋天にとっては今は何の解決にもならず。まともな意見を口に出す。そうすると、少しすっきりした顔をして、彼女は微笑んだ。

「よし。じゃあ、この話はおしまい。あと少ししたら、センターに行って。迎えの人が来てくれるからね、その人と一緒に。今日は一日センターで過ごしてね。緋天ちゃんが休んでたから、向こうはうずうずして待ってるよ」

「あ、3日も休んじゃったから、怒られるかな」

「それはないよ。何て言うか・・・こう、やる気満々だったのに、勢いをそがれて、無駄なエネルギーを有り余してる、って感じ。覚悟しといた方がいいよー、あの人達のパワーに押されないようにね」

 

 

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