22.

 

墓場を歩いて、手のひらの結晶の色を見る。始めに橙色を示した後、すぐに青色に変わった。どちらも色が淡く、ほんのり色が小さく浮かんでいるだけだ。

「これ、何ですごい色が薄いんですか?」

 その辺りに霊が漂っているのだ、という状況が怖くて。蒼羽の横から下がらないように歩く。

「こういう場所にいる霊は、何か心残りがあるとしても、行動を起こしはしない。自分に参りに来る人間を待つだけだ」

「なるほどー。でもなんかかわいそう。成仏してくれればいいですね」

 蒼羽に同意を求めると、彼は眉を上げて自分を見下ろしていた。また変な事を言ってしまったのかと思っていると、視界の端で結晶の色が変わる。

「あ、なんか赤っぽい色になりました。これは何ですか?」

「怒り。苛立ちもそうだな。怨恨とあまり変わらない」

「なんだか切ないですね・・・」

 死んでからもそんな感情で満たされてしまうなんて。それはあまりにやるせない。しんみりしてしまって、黙ったまま歩き続けるといつの間にか墓場の駐車場に戻っていた。バスを止める奥のスペースに、黒い喪服がいくつか見える。

先程葬儀場にいた一団だろうか。手の中の結晶が薄い青に変わった。

「やっぱり生身の人間の方が強い感情なんですね」

「普通はそうだな。今から行く所は違う」

 蒼羽は答えながら、ポケットから車の鍵を取り出した。

「あぁぁ。やっぱり幽霊なんだ・・・」

  

 

 急カーブの坂道。カーブを少し下った先に花が供えてある。思わず顔をしかめて隣を歩く蒼羽を見た。

「蒼羽さん、ここって・・・」

「子供が死んだ。スピードを出してカーブを曲がりきれなかった車が、

下校途中の子供に突っ込んだ」

淡々とした口調で蒼羽は言う。それが少し怖かった。

「・・・ひど」

 花を活けた花びんの前にしゃがみこんで、手を合わせる。

「・・・見ろ」

 蒼羽は横に立ったまま腕を伸ばして、結晶を目の前に出した。薄い緑と青がゆっくり入れ代わりながら光る。葬儀場や墓場で現れた青よりも少し色が濃い。

「緑は困惑の色だ。どうしたらいいのか判らない。多分この子供は何が起こったのか理解しているが、何をすべきか判らないんだ。この場所に囚われている」

 彼は鎖を下げてこちらの手に乗せる。結晶の色がさらに少し濃くなって青に光る。そのまま緑に変わらずに一定の色を保った。

「あれ?蒼羽さん、色が変わりました」

「お前の強い気持ちに同調している。子供の感情の方が霊だから薄い」

結晶を握って、もう一度手を合わせて立ち上がった。蒼羽が車に向かって歩き出す。それを追いかけて、口を開いた。

「霊の思念が怪物になる位の強さを持つ事はありますか?」

「怪物化した例は聞いた事がないが。強い思念はたまにあるな。怨霊とか言うんだろう?」

「多分そうだと思います。そっか、結局強い思念を見つけても、それが霊ならどうしようもないんですね?人間ならなだめたりできるけど」

 どうしようも無い事だ。それでも胸の奥がざわめいた。

「・・・そうだな。それは別の奴の仕事だ」

「あ、霊媒師とかゴーストバスターズとかそういうのですね。そういう人達があの子に気付くといいですね」

眉をしかめていた蒼羽が出す言葉に少し明るい気分になって。答えをくれた彼を見た。蒼羽は小さくうなずく。

「ん」

 

 

 

 

緋天の顔に笑みが浮かんだ。

暗い表情が笑顔に変化して。またしても安堵感を覚える。

目の前のアウトサイドが笑うと、なぜかほっとしてしまう。

そう感じる自分の心は理解不能。本日浮かび上がった、2度目の疑問を急いで頭の隅へ。先程追いやった理解不能の反応の上へ重ねた。

 

 

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