21.

 

市街地から外れて、国道へ入った。しばらく進んで緋天がきょろきょろと流れていく外を見渡していた。

「あれ?葬儀場ってもしかして・・・桜町のセレモニーホールですか?」

 目線を前方に戻してから、ハンドルを握る自分に聞いてくる。

「そうだ。知ってるのか?」

「はい。・・・前に伯母の葬儀で行った事があって」

 一瞬。ほんの少しだけ。

 緋天の目に陰りが走った。同時に弱くなった声音を聞き取る。

「家からも結構近いですよ、この辺り。車で20分くらいです」

 すぐに明るい声で言葉を続ける彼女に、なぜか安堵して。

 ほっとした自分自身にかなり驚く。理由が判らず、頭の隅に理解不能な気持ちを全て追いやった。

 

 

 

 

広い駐車場の隅に車を停める。エンジンを切って蒼羽が口を開いた。

「今日ここで葬儀がある。あと少しで参列者が墓場に移動する為に出てくる。これを見ろ」

 蒼羽が首に手をかけた。黒いTシャツの中から銀色の鎖と中指くらいの大きさの石が出てきた。彼は長い鎖を無造作につかんでそれを自分の手にのせた。

 鎖の先に、同じ金属でできた細かい模様の台が逆さに石を支えていた。六角柱の先に六角錐を逆さにつけた形の石。きれいに透き通っていて薄青く光っていた。

「きれいですね・・・これが結晶ですか?」

「ああ。光っているのは、アウトサイドの強い思念に反応しているからだ」

その言葉を聞いて、ベリルの話を思い出す。

「思念って・・・悲しいとか、悔しいとか、喜怒哀楽の事ですか?」

「結晶が反応するのは、強いマイナス感情だ。たまに、ものすごく強い感情と天気が雨の時に、どういうわけか穴を通って流れてくる。普段の雨にも人間の感情が混ざっているけど。それが穴の近くで降るかどうかで決まる」

「それを予測するのが、予報士の仕事、ですか?」

 なんだか長い文を話す蒼羽が珍しくて。続きを聞きたくて、遠慮がちに質問する。

「少し違う。気象情報を把握するのは当たり前だ。現代のアウトサイドの技術はすごいから。センターの人間にも簡単に情報が手に入るんだ。今の予報士はもっと細かい所を探る」

「細かい所?どういう事ですか?」

 蒼羽は自分の手の上から結晶を取って、彼の目の前にかざした。

「まず一つ。普段から強い思念を持つアウトサイドを把握しておく。その感情の種類、生活範囲、弱点。いつその人間が爆発してもいいように。思いはそのうち風化するかもしれないが、何かのきっかけで暴走することもある。この結晶でどこにそういう人間がいて、その感情の種類までは判る。あとは、そうだな。あまり誉められた事じゃないが、少し周りを嗅ぎ回れば判る事だ」

「・・・結晶で判るって、どういう具合にですか?」

「感情は色で現れる。この青は悲哀の色だ。光の強さが思念の強さだ」

 蒼羽は結晶を自分の目の前に持ってきて、よく見えるようにしてくれた。

「あと一つ。実際に雨の日。または雨が降りそうな時。結晶の反応を見て、雨が流れてくるか、その雨が怪物になるかを判断して、センターに知らせる。把握しているアウトサイド以外にも、突発的に強い思念を持つ者もいるからな。怪物化しそうなら待ち伏せして処分する」

蒼羽が言葉を切って、結晶を元通り首に戻した時、葬儀場の中から喪服を身につけた一団が出てきた。蒼羽の胸元に目をやると、ほんの少しだけ、石の青さが強くなったように見えた。

「判ったか?」

 横目でちらりと自分を見てそう言って、蒼羽はエンジンを掛け直す。

 そこで、ある考えが浮かんで顔を上げて蒼羽をのぞき見た。

「この後行くお墓と事故現場って・・・もしかして?」

「何だ?」

「幽霊目的、ですか?」

「そうだけど」

「そうだけど、って・・・なんか、真面目な顔で言わないで下さいっ」

 情けない表情をしてしまっていると自分で判ってはいたが。抗議せずにはいられなくて。そんな自分を蒼羽はまたも無表情で見やって車は快調に滑り出す。

  

 

 

 

「昼間なのにー。目的が目的だけに怖いぃ」

墓石が並ぶ通りを、おどおど見回しながら緋天は歩く。

「元は人間だ。何が怖い?」

 半歩後ろを歩く彼女を見て答えると。緋天は一歩跳ねて自分の横に並んで言った。

「うーん。言ってる事は正論なのに・・・何かが違いますよ、蒼羽さん」

「・・・結晶を見ながら歩いてみろ。反応が変わる」

 また首から鎖を外して緋天に渡す。受け取ったそれを手のひらに乗せて緋天は一応それを観察する素振りを見せた。ごくごく薄い橙色。

「ん?今は・・・オレンジですね。これはなんですか?」

「怨恨だ」

「ものすごーく嫌な予感がするんですけど。・・・これって幽霊に反応してるんですか?」

「多分な」

「いやぁ。いきなり怖い!!涼しい顔の蒼羽さんって一体!?」

「だから、何が怖いんだ?」

 

いちいち反応する彼女に、溜息が出る

それでも、どこかその怯える顔が面白かった。

 

 

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