20.

 

「今日は何をするんですか?」

 店を出て、斜め前を歩く蒼羽に追いついて横に並ぶ。アーケードに入って、駅の方に足を進めて蒼羽が答えた。

「晴れだから何もしない」

「んん?えっと、じゃあ、今からどこに行くんですか?」

「葬儀場。と、墓場。あと、事故現場」

 さらっと言われたその言葉に、少し後ろに体が引けた。

「えぇ?そんな所で一体何するんですかー!?」

「結晶のしくみを見せてやる」

「あ、なんだ、びっくりしたー、ってなんか納得する自分がいやぁ」

 眉間にしわを寄せて、蒼羽は少し首を傾ける。何を言っているのだという顔をして、自分を見ていて。少し恥ずかしく思いながらも、自分に答えてくれる、彼のその態度が嬉しかった。そうして、自分が小走りになっていない事に気付いた。

今日は、初めから。蒼羽が歩調を合わせてくれていた。

  

 

「あれ?駐車場だ。もしかして蒼羽さん、車・・・」

駅の隣に作られた、月極駐車場の中に迷う事なく蒼羽は入って行く。

「何してる?早く乗れ」

 銀色のスポーツタイプの車の鍵を開けて、扉を押さえて彼は言う。我に返って、言われた通りにすばやく助手席に乗り込んだ。つまらない事で彼を苛立たせる事はしたくない。

「・・・蒼羽さん免許証持ってマスか?」

「持ってなければ車に乗れない」

 それでも好奇心に負けて。おずおずと言い出せば、嘆息しながら彼は

そう言ってダッシュボードを開け、カードケースを渡してきた。そろそろとそれをめくって、中身を確認する。

紛れもなく、それは自分も持っている日本の免許証。右下に、今よりも少しだけ少年っぽい顔をした蒼羽が収まっていた。

 

蒼羽・ウィスタリア。

氏名欄にはそう表示されていて。

「気は済んだか?」

「いや、あの、色々突っ込みたい事があるんですけど。とりあえず。これはどうやって取ったんですか?免許取るのに戸籍も必要ですよね。名字のこれ、ウィスタリア、って日本国籍ですか?」

「予報士は全員、受け持ち地区の国籍、戸籍を持っている。情報を操る部署がセンターにある。俺は日本人と言うには少し髪の色も違うからな。イギリス人とのハーフという事になっているんだ」

 すらすらと答えて蒼羽はエンジンをかける。スムーズに車が動き出した。横目で蒼羽を見ると、シートベルトもしっかりつけていた。

「うーん。センターって謎。あ、じゃあ、もしかして教習所にも通ったんですか?」

同じようにシートベルトをしてから、彼に問いかける。

「ああ。予報士は全員免許を取るから。身分証明に都合がいい」

「・・・確かに。携帯買うのにも免許見せなきゃいけないしなぁ。お金もセンターが用意してくれるんですか?この車も」

「そうだな」

うなずく彼に頭をかかえたくなる。涼しい顔で蒼羽はハンドルを切る。

「・・・なんか想像以上に大きい組織ですね。ってあれ?蒼羽さん誕生日5月15日?」

       

 

手の中にあった免許証を見て、緋天が気付いた。

「ああ、そうだけど」

「やだー、一昨日じゃないですか!昨日ベリルさん教えてくれなかったー」

 顔をしかめる彼女の反応は訳が判らない。

「何かあったのか?」

「・・・蒼羽さん。何かって。自分の誕生日なのに。あっ、もしかしてあたしが穴に入ったせいで誕生日忘れてました?」

「いつも忘れてる。ベリルがナイフくれたから思い出した」

「・・・もう。あ、はいはい!じゃあ、あたしも何かプレゼントしたいです!何がいいですか?」

 右手を挙げて、嬉しそうに緋天は言う。何がそんなに楽しいのだろう。

「何でだ?」

「何で、って。誕生日にはプレゼントだし。蒼羽さんにはこれからお世話になるし。何か欲しい物ありますか?」

「・・・思いつかない」

「えぇ?じゃあ何か考えておいて下さいね。何でもいいですよー」

 赤信号で車を停める。緋天を見る。

「・・・お前はいつだ?」

 相変わらずの笑顔の彼女に、それを聞かなければいけない気がした。

「え?あたしの誕生日ですか?2月の5日ですよ?あっ!そういえば蒼羽さんとタメだったんだー。なんか変なのー」

「何だそれは?」

「同学年って事ですよ。日本は4月2日から翌年の4月1日までで学年を決めるんですよ。蒼羽さんは21になったばかりでしょ?あたしは来年の2月で21だから、学校に行ってたら同じ学年なんです。わ、なんか想像したら楽しい。同じクラスで勉強する蒼羽さん。呼び捨てにしちゃったりなんかしてー。ふふ」

 一人で笑う彼女は、本当に楽しそうで。

 何故そんなありえない想像をして、そしてそこまで嬉しそうにできるのかと。そんな夢想などしても時間の無駄だ、と。そう言いたいのに、口から出てきた言葉は、何故か違うものだった。

「・・・別に呼び捨てでもいいけど」

「えええ?そんな事恐れ多くてできませんー。なんか定着してますし」

「そうか」

 

 

 信号が青に変わる。

アクセルを踏み込んだ。

 

 

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