2.

                                  

雨が激しく落ちてくる。

全身はずぶ濡れで。あまりいい気分ではない。

暗い空と落ちてくる水滴に、いつものようにあの日の事が思い出された。それでも甦る記憶は年を重ねるごとに映像が薄れていく。悲しみが追いやられる代わりに、雨の日は苛立ちが募る。

こんな気持ちは閉じ込めておきたい。外になんか出したくない。

そう強く思い続けたせいか、この仕事を始めた頃から世界の色は前にも増して薄れて見える気がする。つまらない感情に振り回されたくなくて。周りの幸せな人間と同じ感情を分け合う気にはなれなくて。

 仕事をこなす事が生活の基準。

 ほんの少しの、自分を大事にしてくれた人たちが快適に生きていけれ

ばそれでいい。他の人間はどうなってもいい。

 自分が生きる意味は、仕事を続けていく事しかないのだ。

 いなくなった人物の影を追い求めながら、その力量を推し量る。想像でしかないが、そうでもしないと夜眠りにつく度に死んでしまいたくなるから。いつまで経っても追い越せないままならそれでいい。

 

 

 

雨に濡れた前髪が、水を含んだせいで重く下がる。

視界にそのワイン色が映った。

今は邪魔でしかない。邪魔な記憶を呼び起こす色でしかない。

だから後ろにかき上げる。

 何もいらない。何も欲しくない。

暖かい感情は自分には無駄なものなのだから。      

 

 

    

 

 

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