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その街は地方都市と言い表すのもおこがましい様な、どこにでもあるちょっとだけ発展してみましたーって感じの気力のぬけた、でも地元民には「街」の機能を持った中心地で。

たいていの本はその街で一番の大型書店で手に入るし、まさかこれはないだろう・・・って思ってるマイナーな漫画本もきっちり全巻そろえられて棚に並んでいるし。

 本好きの自分は何か急いで読みたい本があったら、まずはその本屋に直行するのが高校時代からのパターンだった。

 

 

       

俗にいう「フリーター」、それが職業。

 高校を卒業してから、アルバイトをして生活している。

 二十歳になってもちゃんとした会社に就職もしないで親と同居しているという状況。なんでこうなってるんだろう、こんなはずじゃなかった、っていつも考えていて。大学受験に失敗したのがすべての始まり。

高校卒業後、人生は坂道を転げ落ちて行くばかり。

小さい頃から自分はいい子と評される程で。学校の成績に不自由した覚えがない。高校のレベル自体はちょうど中ぐらいだったから、別にすごく頭がいいわけではないのだけれど、同級生や教師陣からは「頭のいい子」としてみなされていたわけで。

そのまま三年生に進級して、当然のように周りの流れに従って大学を受験しようとした。並レベルの高校から進学できるのは並レベルの大学。国立校だなんてお門違い。私大の推薦枠なら山ほどあったけど、我が家はそれほど裕福じゃない。そこで地元の公立校一本に絞って受験したのが間違いだったのだ。

 見事に落ちた。担任教師は真面目に勉強して受かると思い込んでいたから慌てふためいた。今からでも間に合うからこの学校を受験してみろ、一年浪人しろ、などと。電話口で必死になって。

 その時点で何か得体のしれない脱力感に襲われて、もう何もかもがどうでも良くなっていたのだ。何の為に勉強をするのかが判らなくなった。今まで「いい子」でいたから、急にその反動が来たのだと両親が笑って言ったので、そのままずるずるとアルバイトをするだけの生活。

何かをやりたいという目標がなかった。勉強の励みになる何かが欠けていた。今でもそうした特別なものが見つからないのだ。

 転落人生のできあがり。

 

 

 

 

1週間前、2年近く続けたバイトを辞めた。

お客さんとトラブル起こして、怒られて。でも自分は何も悪い事なんかしてない。それははっきり言える。むしろ被害者だ。だけど当然のように上司に怒られて。それで、腹が立って、悔しくて。辞めてしまった。 

自分でも、どうかしていると思う。

何かがうまくいかない。全部自分が悪いとは言わないけれど、それでも受験に失敗したのは自分の勉強不足。そんな事は初めから判っているのに。素直になれなくて、何かうまくいかないと、誰かのせいにしたくなって。

そんな自分は嫌い。

どうにかしたい。このままでは、自分はどんどん駄目になるから。

 

家にいてもやる事がない、そう思って。気晴らしに今日は街に出てきた。前から読みたかった本を買いにいつもの大型書店に向かう。家を出た時は晴れていたのに、今はどんより曇っていた。雨が降りそうで。傘を持っていないから、さっさと買う物を買って帰ろう、と自然と急ぎ足になる。

本屋の中をそのまま早足でうろうろして目的の本を手に入れる。

外に出れば先程よりもさらに曇ってきていた。今から家に帰るとして、ここの商店街から駅まではアーケードになっているから平気だけれど。問題は一駅乗って地元駅に着いてから家までの距離だった。歩いて20分。コンビニで傘を買った方がいいかと悩む。どうも、あの安っぽいビニール傘は好きになれなくて。普通の傘を買うにしてももったいない気がする。

とりあえず。

 先を急ごうと足を速めた。

 

ぽつり、と。

上から頬に水滴。

ここはアーケードのはずなのに。そう思って上を見上げれば1メートル位なぜか天井がない。修理中にしてはおかしい位にぽっかり、灰色の空が見えていた。

一部分だけアーケードの屋根がきれいに齧り取られたみたいに。

 

そのまま視線を右側に移したら、見慣れない通りが見えた。記憶の中では、この横道は前は暗い感じの通りだった。誰も見当たらなくて。雨の中に見えるのはレンガで舗装された道。外国っぽい。フランスとかの田舎道という感じ。道の奥は、行き止まり。お店らしきガラス扉の建物が見えた。

すごく、好きな雰囲気。

静かなレンガの道、同じレンガ作りの建物。

自分の趣味にぴったりはまって。気になって気になって。雨が本降りになる前に、少しだけお店の看板だけでも見てみようと足を踏み出した。

 

どしゃ降り、が頭の上から降りてきた。

 ほんの一瞬の出来事。小降りから、どしゃ降り。なんでアーケード出た途端に降るのだろう。だんだんぬれていくどころか一瞬でびしょぬれになって、呆気に取られてしまう。

 

 

もう、笑うしかなくて。

 笑う事しか思いつかなくて。

 嘲笑うかのように、どうしようもない自分に、お前は馬鹿だ、と。

何かの罰みたいに。大粒の雨が激しく体に降りかかる。

 

判ってる。どうにかするのは自分にしかできないって判ってる。

それでも、今は思わずにはいられない。

こんなはずじゃなかったのに・・・。 

 

       

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