15.

 

「今日決められるのはこれだけだね。何か質問はある?」

 オーキッドの青い目を見て、ふと思いつく。

「オーキッドさんとベリルさんて似てますよね?目も似てるし、話し方も」

 何となく、こちらの緊張をといてしまう笑みや、その親しげな話し方が。2人は同じ種類であると感じて。そう問いかけてしまう。そんな事を口に出してしまう程、オーキッドの雰囲気は柔らかかった。

そんな彼の自分を見ていた目が、笑みの形へと変わる。。

「よく気付いたね。ベリルは私の甥っ子なんだよ。私の姉の子なんだ」

「そうなんですか?やっぱり。外見だけじゃなくて空気が似てるな、って」

「君は本当に面白い事を言うね。我々とは違う物を見ている。これからが楽しみだ」

 

 

そう言ってから、オーキッドは部屋の中を見回す。部屋にいた部下達が興味津々の目で自分を見ていた。全員、自分がアウトサイドだと判っているから、気になるのも仕方がない。何しろ、前代未聞の大事件だそうだから。

「誰か。ピアスを持ってきてくれ」

 オーキッドの声に反応して、異質な自分、アウトサイドに近づける機会を手に入れる為に、部屋の奥で部下達が団子状態になる。

「・・・あたしはやっぱり珍獣なんですねー」

 その様子を見て苦笑とともにため息が出た。そこへ服が乱れた、背の高い男がやってきて、オーキッドに小さな箱を渡す。にこにこしながら立ったままの男に、つられて笑いかけたので部屋にどよめきが起こった。

「マルベリー、君は自分の仕事に戻って。他の者も。落ち着け。緋天さんに失礼だ」

 苦笑しながら、オーキッドが言う。そこへ冷ややかな声がかかった。

「オーキッド。こっちの用事は済みました。俺はここにいても?」

「ああ、蒼羽。私達の話も終わったよ。ちょっと待って」

蒼羽が自分の横にいつの間にか立っていて、それに驚くことなくオーキッドが答えた。無表情で立つ彼のおかげか、室内の喧騒が収まっていた。

「緋天さん。このピアスを使って。私達以外の者とも話せるから」

 渡された小さな箱を開ける。ベリルが昨日見せてくれたピアスと同じ物が収まっていた。銀色の金属に、小さな半透明の白い石。耳たぶを挟むデザイン。顔を上げてオーキッドの顔を見ると、右耳に同じ物。

髪に隠れているけれど、きっと蒼羽の耳にも同じ物があるのだろう、と思う。それから自分がピアスホールを開けていない事に気付いた。

「あ、あたしピアスホール開けてないんです」

 怖くて開けられません、という言葉を飲みこんで。優しく自分を見守る彼に言った。

「じゃあベリルか蒼羽に開けてもらって。大丈夫、痛くないから」

 怯えた顔をしてしまったようだった。彼は苦笑して、なだめるように声をかける。それから蒼羽に目を移す。

「蒼羽。緋天さんをちゃんと連れて帰るんだ。来た時のように自分だけ先に進まない、緋天さんに歩調を合わせる。何か聞かれたら丁寧に、緋天さんが判るように答える。いいか?」

「・・・はい」

 オーキッドが蒼羽に言い聞かせるのを見て。蒼羽が一瞬バツの悪そうな顔になり、それからしぶしぶ頷くのを見て。思わず笑みがこぼれた。

 

 

       

 

センターを出て街の中を通る。ほとんどの建物がレンガ作りで、穴に位置する通りの延長みたい、と思う。蒼羽が自分の斜め前を歩いていた。来た時よりもゆっくり歩いている事に気付いて、また笑みがこぼれた。

「蒼羽さん、ここは市場ですか?」

 道の両側に色とりどりのテントが並ぶ広い通りに出た。りんごに似た、黄色い果物が山積みにされているテントを見て、相手が蒼羽だという事を忘れて質問してしまう。

「ああ、そうだ」

 意外にも蒼羽が前を向いたまま低く答える。きょろきょろとテントを見回しながら彼の後に続いた。ふいにひとつのテントに目が釘付けになる。そこには銀色の金属に様々な色の石をはめた、アクセサリーが並べてあった。

「蒼羽さん、ちょっとだけ見てもいいですか?」

 蒼羽に声をかけて、左手のテントを指差す。

今なら何を言っても聞いてくれると思って。行き道にあれほど感じていた蒼羽への恐れは、オーキッドとのやり取りを見てからどこかに消えていた。

蒼羽が振り返って眉間にしわを寄せる。その時指差したテントから声がかかった。赤い髪をした男が、親しげに蒼羽に話し掛ける。

「お前は・・・相変わらず情報が早いな。でも今アウトサイドがここにいる事を広めるな。街じゅうの人間が押し寄せる」

 蒼羽が男に答える。その口調から知り合いらしい、と推測する。男が自分を見て何か話しかけた。

「すいません。まだピアスをつけてないので言葉が判らないんです。ピアスホールを開けてもらったら、また来ますね」

 自分が答えたのを見て、蒼羽が男に口を開く。

「ピアスをつけてから、また来る、と言っている」

 通訳をしてくれた彼に驚いていると。男が微笑んでまた何か言った。

「もう行くぞ」

なぜかそれを遮って。蒼羽はこちらの右腕を引いた。触れられたそこは、昨日のように痛くない。男に会釈して、歩き出した蒼羽の後を追った。

  

 

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