10.

 

戸惑った表情で。何か考えている緋天を見てから、蒼羽に目を移す。驚いた事に、蒼羽はソファから身を起こして、緋天をじっと見ていた。2人で緋天が何かを言い出すのを待つ。どうすればいいか判らないから。

 

「・・・何か。何か証明できる事はありますか?違う空間にいる事。その世界が本当に存在してる、っていう証明」

 見られている事に気付いて。蒼羽と自分を見ながら静かに、言い聞かせるように彼女は言った。

「確かに。これじゃ、話が進まない」

 うなずいて、蒼羽に顔を向ける。

「蒼羽、君の石をいくつか持ってきて。向こうには存在しない力を持つ石がいい」

蒼羽は黙ったままソファから立ち上がって、カウンターの側の扉を開けた。その背中はいつも通りに見えるのだけれど。きっと彼も充分動揺しているはずだ。

 

 

 

「こっちの人間は、力のある石を使ってる。話の始めに言ったの覚えてる?それを今から君に見せるよ」

 蒼羽から受け取ったA4サイズの金属の箱をベリルが開ける。横から中をのぞきこんだ。箱の左半分に、丸くカットされて磨かれた石がいくつか並べられているそれは、色とりどりでこちらの目を楽しませた。

「きれい」

「宝石みたいで楽しいでしょ?そうだな、これがいいかな」

 そう言って、ベリルは薄い水色の石を取り出した。

「この石は物の重さを変える。重い物を軽くする。持ってみて」

 渡された石を手にする。五百円玉と同じくらいの大きさで、重さも五百円玉くらい。特に重いわけでも、軽いわけでもない事を確認する。

「その石はそのままだと使えないんだ。今度はこっち」

ベリルが箱の右半分に収まっていた、銀色の物体を取り出す。それは細い金属で、立法体の骨格が作られていた。一面だけ、上の面だけに、同じ金属の板が張られている。

「この箱がないとその石は使えない。ここの部分がふたになっていてね、中に石を入れる」

 ぱちん、と音をたてて、上の面の金属板を開けてから自分に渡す。手に取って重さを確かめる。重くない。石と同じくらいの重さ。

「その中に石を入れて。あ、ふたはまだ閉めないで。ふたをした時点で効果が現れるから」

言われた通りに箱に石を入れて、ベリルを見た。

「何を重くする?それだと10分の1くらいに軽くなる」

 

店の中を見回す。中々重そうなものはないと重いかけて、自分の座っているソファが目に止まった。

「このソファ、試しにこれを動かしてみてもいいですか?」

「ああ、ちょうどいいね。やってみて」

 手に持っていた立方体をテーブルに置いて、ソファの後ろに回りこんだ。背もたれをつかんで後ろに引っ張ってみる。ズッ、と音を立てて、少しだけ動いたけれど、持ち上がる所まではいかない。

「これ、意外と重いですね」

「大きいからね。じゃあふたをして、ちょっとその板を中に押し込んでから、ソファの上に置いてみて」

 ソファの前に回りこんで、立法体を手に取る。ふたを閉めて、言われた通りに板を押す。エレベーターのボタンを押したような手ごたえがあって。ソファの上にそっと置いた。

「よし、じゃあソファを持ち上げてみてよ」

 ベリルが口の端を上げて、にやり、と笑った。その笑みに少し驚いて、ソファに目を移す。腰をかがめて、今度は前から。左手を背もたれに渡して、右手をソファの下に回す。腕に力を入れて、持ち上げた。

「わ、」

 予想外の軽さに、腕が上がった。その結果、ソファが体の前で斜めに立ち上がる。

ソファに手を掛けたまま、ベリルを振り返る。彼は先ほど同じ、イタズラをする子供のように笑って見せてから、真面目な顔で自分の目を見た。

こちらももう、笑えない。

「すみません。6割ぐらい、ううん、8割ぐらいウソだと思ってました。でも、今は信じてます」

 

 

ソファをそっと元に戻す。

 立法体の中の石が、きれいな水色の光を発していた。

 

 

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