夏の終わりに恋人祭り 9
「やだ!そんな事があったなんて知らなかったわよ!」
無数の灯りが並ぶ喧騒の中で、姉が眉をしかめる。
「・・・知ってるのは叔父さんとフェンの家族と、警備隊の一部だけですよ」
蒼羽と緋天がいなくなった後、ぶらぶらと歩きながら、今日の計画を思いついた経緯を話す。
「だったら、もっと派手にやっても良かったんじゃない?倒し方があっさりしすぎてたわよ」
「私もそう思いましたけど。あれが限界じゃないですか?緋天ちゃんが見てましたからね。蒼羽もそれを判ってたから、1対多数の形にしたんだと思いますよ」
「あ、そっか・・・」
今日の蒼羽の戦いを見ていた人間には、しっかりと記憶される。
蒼羽の並外れた戦闘力。
その蒼羽が大事にする緋天。
「とりあえず最低限の目的は果たされましたから。昼日中に街の中心で連れ去られるなんて事、もうないと思います」
「そうね・・・。まあ、これ以上は予防しようがないわね。それこそ緋天ちゃんに一日中護衛をつけるとか、こっちに来させないとか。そういう事をするしかないし」
「ええ。やろうと思えばできますが。蒼羽の仕事に影響が出るでしょうし。緋天ちゃんも嫌がると思います。今の蒼羽は緋天ちゃん中心に動いてますから」
ふふ、と姉が柔らかな笑みを見せた。
「人間、変わるものね。私、今日あの子を目にするまで、ベリルの話半分も信じてなかったわ。きっと父上も母上も、みんなそうよ。あの子のヤサグレ様を知っている人はね。すごく安心した」
「私としては、蒼羽をからかえるようになって、嬉しい限りですよ」
「あんたは昔から蒼羽にちょっかい出してたじゃないの」
「反応が違うんですってば。緋天ちゃんがらみだと、怖い程素直ですよ」
「ほどほどにしなさいよ。ま、緋天ちゃんが安全にこの街にいられるように、あんたのその悪賢い頭、フル回転させてよね」
「何だってやってみせますよ。蒼羽が今のままでいる為に」
嬉しそうにそう言う姉に正直に答えてみせた。それは心からの願い。
隣を見れば、頑張りなさい、と姉弟だから判る無言の微笑が返ってきた。
「蒼羽さん達がそこまで考えてくれてるなんて思ってなかったよ・・・」
事のあらましを話し終えると、緋天が小さくつぶやく。
「なんかね。フェンさんのお母さんとかも。あたしが思ってる以上に、色んな人がすごく心配してくれて・・・そういうの、って。えっと。そう。すーごい、暖かいの。うれしい」
少し頬を染めた緋天が、顔を上げてゆっくりそう言った。
その表情がたまらなく可愛くて、手を伸ばす。
「・・・あとね。今日、蒼羽さん、すごくかっこよかったよ!いつもかっこいいけど。服とか、マントとか、映画みたい」
腕の中から、聞こえる声に気を良くする。それでも、同じ事を言いたいのは自分の方で。
「緋天も。いつもと違うから、フェンまで見てるんだ・・・」
「???浴衣、そんなに浮いてた?」
首をかしげた緋天の、その右の首筋に唇を寄せる。
「・・・違う。他の奴らが見てるのは、この辺り」
「っっ・・・」
きつく吸って、痕を残す。
「や、だ。蒼羽さん、や。痕つけないで・・・」
小さな声で、緋天が抵抗したけれど、どうしても止める事ができなかった。今日、緋天に向けられた、男達の視線や。正義の味方のような振る舞いをする男達を見ていた、緋天の嬉しそうな顔が。苛立ちと焦りを生んで、自分の物だと知らしめる証を付けずにいられない。
「・・・蒼羽さん、怒ってるの?」
顔を離して、黙ったままでいたら。緋天が不安そうにのぞきこんでくる。首を振って否定する。この行動の意味を、どう言えばいいか判らないながらも、その顔が困るのを見たくて、口を開く。
「あえて言うなら。緋天があの5人が武器を掲げた時に、嬉しそうにしてたから。なんとなく」
「ええ?だって・・・三銃士みたいだったんだもん」
予想通りの答えが返ってきて、ため息をついてみせる。緋天が慌てた表情で目を泳がせた。
「ごめんね?でも、蒼羽さんの方が絶対かっこよかったよ!!」
「・・・」
もう少し困らせてみようか、と思って、笑わないように気をつけて、黙り込んだ。
「蒼羽さん・・・」
本当に必死な様子に、少し罪悪感が浮かんできて、目を閉じる。
それを、拒絶と取ったのか、緋天の方も黙ってしまった。やりすぎたと思い直して、目を開けようとした、その瞬間。
唇に、甘やかな感触。
驚愕に目を開けた時には、緋天はすでに離れていた。恥ずかしそうにうつむいて、小さな声を出す。
「・・・これで、許してくれる?」
反射的に、唇に手を当てる。緋天からキスをしたのは初めてで。言いようのない喜びに支配された。
次は、もう少し長くして欲しい、という願いを込めて。
答えの代わりに、深く口付けた。
END.
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