夏の終わりに恋人祭り 1

 

蒼羽と2人で取った夏休みの、次の週末。金曜日。

 

「フェスティバル?」

穴の外に出かけたはずの蒼羽に、一目会ってから帰ろうとして。

「夏のイベントなんだ。この地方では割と有名だよ」

「遠くの街からも、灯りを買いにやってくる人達がいるんですよ」

ソファに座るなり、ベリルとマロウが駆け寄ってきて話始めた。

どうやら明日、この街の夏祭りがあるらしい。

「灯り、って???」

「ああ、色んな細工の灯りをね、売るんだ。それがメインイベントかな・・・。すごくきれいだよ」

「そうそう、夜の大通りにものすごい数の灯りの屋台が並ぶんです。あれは見てるだけでも楽しいですよー」「わ、見たーい」

想像するだけで、心が弾む。

「だよねだよね、緋天ちゃんそういうの好きだよね???」

「はい、大好きです!!」

そう答えるとにっこり笑った2人が顔を見合わせる。

「決定、ですね」

「うん、決定。99%、来るだろうね」

「???」

「じゃあ、緋天ちゃん。明日の6時、ここに集合」

ベリルの言葉にマロウがうなずく。

「蒼羽さんと、2人で行くといいですよ」

「え?でも蒼羽さん、そんな事、全然言ってなかったですよ?」

なぜか蒼羽がいないのに、話がどんどん進んでいく。

「あ、それは大丈夫。ちゃんと捕まえておくから。それよりさ、緋天ちゃん、浴衣持ってる?」

「え、持ってますけど・・・」

「それ、明日着てきて」

 有無を言わさない口調で、ベリルが言い切る。

「でも・・・なんか変じゃないですか?1人だけ、浮いちゃいますよ」

 こちらの世界の人には、日本の着物なんて奇妙に映るだろうに。

「大丈夫です!それぞれが色んな民族衣装を着るのも、ひとつのイベントになっているんですよ。民族衣装、っていうか仮装大会みたいな感じで、好きな格好をして。みんなこの為に、何日も前から張り切って、何を着るか考えてるんですよ。目いっぱい着飾るんです」

「へえ・・・」

 お祭り自体はとても楽しそうで、行きたくて仕方がないのだけれど。何だか2人の勢いに圧倒される。

「よっし。じゃあ、緋天ちゃん。浴衣を着て、ここに6時集合。OK?」

「オ、オーケーです」

 かなり真剣な目のベリルが自分を見据える。

「はい、大事なのはここから」

「え・・・?」

「・・・この話、明日のその時間まで、蒼羽には一言もしない。OK?」

「オー、ケー・・・?って、ええ?何でですか!?」

 ベリルの迫力に流されそうになって、ようやく何がおかしいかに気付く。

「とにかく。秘密にしてて。そうじゃないと、多分、緋天ちゃんはお祭り楽しめないよ?蒼羽と一緒に行けない」

「蒼羽さんに秘密にした方が、全てうまく行くんです。理由は今は言えないんですけど・・・」

 マロウがいかにも申し訳なさそうな顔で補足する。

「わ、かりました・・・良く判らないけど。明日ここに来るまで蒼羽さんには秘密、って事ですよね?」

 とりあえず、2人の事は信頼しているし、悪いようにはならないだろうと思ってそう答えた。

「うん」

「あれ?でも、ベリルさんの夏休み、明日からですよね?旅行するって言ってませんでした?」

「あ、それ、明後日からにしたんだ。こんな楽しいイベント、逃すなんてもったいないし。お。それで思い出したけど。明日姉も来るよ」

「わー、やっと会える!!」

 

 蒼羽がいない間。

 代わりに呼んだ予報士は、ベリルの姉で。

 家が近くにある彼女は、家庭を持ちながらも、たまに蒼羽やベリルが忙しい時に、こうして手伝いをしてくれるという話だった。手伝いと言っても、センターから認められた資格を持つ人物なので、確かな仕事ができるし、それに何よりベリルの家族というだけで、親しみがわいて早く会ってみたいと、そう思わせた。

 

「なんか、すーごくわくわくしてきましたー」

「期待して損はないですよー」

 マロウが満足そうに笑ってそう言った時、ガラス扉が開いて蒼羽が帰ってきた。

「あ、蒼羽さん、おかえりなさーい」

 一瞬自分の隣に座ったベリルを見て、眉をひそめた蒼羽が、その言葉に微笑を見せる。

「まだ帰ってなかったのか?」

「うん。だって蒼羽さん朝からいなかったし。会ってから帰ろうと思ったの」

 蒼羽の伸ばした左手がソファの背もたれ越しに、首筋を捕らえる。頬を唇がかすめてから、右横のソファに座って、もう一度こちらに向かって手を伸ばした。

「うわ、蒼羽。普通そういう事するかな」

 引き寄せられるようにそれに誘導されて、蒼羽の腕に収まると。ベリルが呆れ顔でため息をついた。

「何気に緋天ちゃんも移動しちゃうしねー・・・」

「あ、え、すみませんー」

「気にするな。それより、明日どこか出かけるか?」

満足そうに笑ってから蒼羽が口を開く。

「え、えーと・・・」

 唐突に切り出された蒼羽の言葉に答えていいものか判らずにいると、マロウが緋天に顔をしかめて見せて、ここは否定する所だと判断した。

「・・・京ちゃんと約束してるから、明日はダメかも」

 

 

心苦しく思いながらも、自然に聞こえる嘘をつく。せっかく蒼羽が誘ってくれたのに。ベリル達の言う通りにしていれば、本当は明日楽しく蒼羽と過ごせるはずなのだけど、思わず残念に思ってしまう。

「あー、っと。緋天ちゃん、そろそろ帰った方がいいんじゃない?外、暗いよ」

 これ以上、明日の話が続かないようにと、ベリルが助け舟をだしてくれた。このままだと、口を滑らせてしまいそうになるので、これ幸いと隣の蒼羽を仰ぎ見る。

「蒼羽さんに会えたし。もう帰るね」

 途端に蒼羽が眉をしかめる。腰に回された手に力が入った。

「え、ちょ、蒼羽さん?」

「送るから。まだいろ」

「っだ、だめだよ。蒼羽さん朝から外に行ってて疲れてるでしょ。今日は電車で帰る」

 心地良さに負けそうになりながら、必死で続けた。

「それに帰りに買い物して帰るから」

「・・・・・・」

「ほらほら、緋天さんが困ってますよー?今日は帰してあげて下さい」

 黙り込んだ蒼羽に、マロウも助け船を出してくれる。

 蒼羽がため息をついて腕の力を抜いたので、その隙に立ち上がった。

「駅まで送る」

「うん」

 眉間のしわを消した蒼羽に、やっと素直に答える事ができた。

 

 

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