同窓会 6

 

カーテンを開けた窓の外から、真っ青な空が見える。

早朝の清々しい風が部屋に入り込んで心地良かった。

首元から小さな寝息が聞こえて、自分の腕がしっかりと緋天を抱えている事に気付く。

 

その寝顔はとてもあどけなくて。

規則正しい寝息がその無防備さをさらに強めていた。

ほんの少し開いた唇に、思わず引き寄せられる。こんな気持ちにさせられるのは自分だけなのだろうか。他の男が見ても、きっと平静な態度を保っていられるとは思えない。

 

「ん・・・」

 眠っている所を起こす気はなかったが、緋天の顔や髪にキスを繰り返す事が止められない内に、先に本人を起こしてしまった。

「悪い。まだ寝てろ」

「・・・ん、うー」

 目をつぶったまま、不快そうな声を出す彼女に謝っておく。しばらく何もせずに髪をなでていると、再度眠りに入りかけていた緋天が眉をひそめて急に目を開けた。

「・・・っ!」

「どうした?」

 その目が驚きに見開かれて、声をかける。面白い程にその顔が赤く染まっていくので、少し困らせてみたくなる。

「そういう顔をされると、昨日の続きをしたくなるんだけど・・・?」

耳元にキスを落としながらそう囁くと、彼女は途端にうつぶせになる。

「蒼羽さんの、ばかー・・・」

抗議のつぶやきが小さく聞こえて、それを無視して肩口にもキスを落とす。昨夜、緋天の髪に移った煙草の匂いを、どうしても消したくなって、半ば強引にホテルの部屋に緋天を閉じ込めた。

何度も肩透かしをくらっていた、自分の欲求もそれを煽って、家に帰らずに友人の家に泊まる、という電話を緋天にかけさせてまで。

 

「この間は一度だけで我慢していたんだから仕方がない」

 緋天が犯罪者まがいの人間達に傷付けられて、その結果自分の欲求が満たされた夜。

その直後、梅雨の忙しさに追い回されて、7月も後半に入った今。やっと自由になる時間が戻ってきて、誰の邪魔も入る事なく緋天を独占する機会が巡ってきたのが昨夜。それを逃す程、我慢がきくわけでもなくて。

緋天の負担になる事は理解していたが、とてもそれを押さえる余裕はなかった。

「っう、わ。え?」

 シーツに顔をうずめていたその体を、自分に向けさせて。元通り腕の中に閉じ込める。抵抗せずに眉をひそめて、大人しくされるままになる緋天に、ふいに疑問が上がった。

「・・・怒ってるのか?」

「ええ?何で・・・。怒ってはないけど」

 困った表情を浮かべて答える緋天に、続きを促す。

「けど?・・・何だ?」

「・・・っうー、もう、蒼羽さん」

 また非難めいた表情になって、こちらを見上げる。

「なんか・・・あちこち痛くて、体に力が入らないの!!」

 

 その言葉に、つい笑みがこぼれてしまう。

「何で笑うのー?蒼羽さんのせいだよ・・・もう」

 ため息をつく緋天を見て、さらに口元が緩むのを感じる。今日一日、あまり動けない緋天を独占できるかと思うと、どうしようもなく気分が高まる。

「むー・・・おなか、すいてきたー。お風呂入る」

 着替えて朝食を摂ろう、と言いたいのだろう。だるそうに、自分の腕を持ち上げて離れようとする緋天を、抱え直す。

「え、蒼羽さん!?な、」

「体が痛いんだろう?俺のせいだからな」

 驚いた顔で何かを言いかける緋天を抱き上げて、バスルームに向かう。

 そのなめらかな肌の感触に、体の内側で衝動が生まれる。

「ちょ、蒼羽さん、まさか」

「シャワーを浴びたいんだろう?違うのか?」

「違わないけど・・・って、違う!何で蒼羽さんまで入るの?」

 緋天を降ろして、後ろ手に扉を閉めるとそう返される。極力首から上だけを見ようとするその必死さが可愛くてたまらなかった。

「体に力が入らないんだろう?俺のせいだからな」

「〜〜〜!!蒼羽さん!わざとやってるでしょ!」

 あまりの白々しさに、さすがに怒気を含んだ視線が向けられる。左手は緋天の腰から離さずに、右手でシャワーのコックをひねる。お湯に変わるまでの冷たい水が降りかからないように、素早くノズルを横に向けた。必死な顔で、腕の中から逃れようと緋天がもがく。

「足でも滑らせたら危ないしな。何もしないから安心しろ」

「・・・や、蒼羽さん意地悪っぽい。それに、なんでこの状態で、何もしてない事になるの? 1人で平気だから、離してよう・・・やぁ」

 非難の言葉を無視して緋天に回した手を動かした。

 弱く消えていく彼女の声。

「何で、って・・・」

 食事を摂った後は何をしようか。そう考えながら、今日3度目の言葉を口に出した。

「・・・俺のせいだからな」

 

                        END.

 

 

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