15.

 

「今日・・・何かあるんですか?」

センターに入って、いつもと違う部屋に連れて行かれた。壁の三方が全て大きなガラス窓で囲まれた、広い部屋。

中央に大きなテーブルが置かれていて、そこには見たことのない人間が、7,8人座っていた。全員が自分を見ていて、おかしいと思い、隣に立つ、ベリルを見上げた。

「うん・・・。ちょっと話し合いがあるんだ。みんな、偉い人達だよ」

 小声でそう言われて、少し緊張する。

「あたし・・・この場に関係あるんですか?」

「うん。緋天ちゃん、中心」

 それなら、何故前もって誰も教えてくれなかったんだろう。昨日会ったオーキッドは一言もそんな事は言わなかった。朝、ここに来る途中、ベリルも何も言わなかった。

絶対、おかしい。何か、変だ。

そういう感情を押さえ込んで、もう一度、ベリルに聞く。

「何の、話、・・・ですか?」

「緋天さん、ごめんね。急に決まったものだから。驚いただろう?実はちょっとした実験をしたいんだ。少しこの場にいてくれるかな」

 オーキッドの声が後ろから聞こえて。振り向けば彼は微笑んでいた。そこだけは、疑いようもなく安心できると伝わってくるのだけれど。

ベリルがこちらの背中を押して中央のテーブルに連れて行く。そのまま椅子に座るように促された。背中に当たった彼の暖かい手からは到底逃げられない。そう思った瞬間、ここは嫌だと感じている事に気付いた。

 

 

 そのうち、中央にいた、全員が窓際に散らばって移動した。座っているのは自分とベリルだけで、どうも居心地が悪い。

「ベリルさん・・・あの、他の人たちは・・・」

「緋天ちゃんはここに座ってるだけでいいよ」

 その声を聞いたオーキッドも窓の外から、視線をこちらに移して微笑んでうなずく。

「来たぞ」

 自分から見て、正面の窓の側にいた一人が声を上げた。周りの人間が一斉にそちらに移動して、外を眺める。

「やっぱり・・・」

「ああ、これは驚いたな・・・」

「まさか、本当だとは思わなかった」

 全員が口々に驚嘆の声を上げながら。窓の外、下の方を見て、それから。ちらりちらりと自分への彼らの視線が突き刺さってくる。

「・・・ベリルさん、何ですか、これ」

 どうしようもない不安に襲われて、つい、声を上げてしまう。

 それは自分でも驚く程に、弱くて泣きそうな声だった。

「何でもないよ、大丈夫。座ってて」

 いつものように微笑んで、そう言うベリルに、なぜか不信感が募る。

 何か変な事が起こっているのだと判るのに、何も知らされないというのはこれだけ嫌なものなのだ、と全身で感じた。

 

「ほう、あれは蒼羽か。相変わらずいい腕だな」

 じっと座っている事がとても苦痛だ。ふいに感心したような声に蒼羽の名前が紡ぎだされて。

それに反応して、つい、立ち上がってしまった。立ち上がったからには、窓の外を見る、という好奇心を押さえつける事は、もう不可能だった。

「緋天ちゃん!」

 ベリルの声が聞こえた時には、すでに窓の外が見えていた。

 

 

 

 

 

「・・・や」

 油断した。大人しい彼女だからこそ、じっと座っていてくれると思っていた。

立ち上がった彼女を抑えようとした時にはもう遅くて。窓の外を見た途端、緋天の顔から血の気が失せる。

「・・・来て、る」

 後ろに下がった緋天の目は、もう虚ろになっていた。

「・・・お父、さん・・・ど、こ」

「こ、れは・・・」

 その様子を目の当たりにしたオーキッドが、焦った表情になった。

「逃げ、なきゃ・・・お兄ちゃ、・・・」

 さらに後ずさりする緋天を、周りの人間が遠巻きに見る。

 もう完全に、緋天の目には現実が映っていない。

「緋天ちゃん!」

 たまらず声を上げた。

 そんな風に驚くのは理解できるが、何も遠巻きにしなくてもいいのではないかと怒りが沸き起こる。

「・・・は、やく・・・来て、る・・・よ」

 オーキッドが窓の外に向かって怒鳴る。

「蒼羽!!早く上がって来い!!緋天さんの様子がおかしい!!」

「・・・・・・来て、る・・・・・・き、た、」

 昨日と同じように緋天の前に回り込む。

「緋天ちゃん!!」

「やあああああ!!」

 泣きながら、こちらの腕を振りほどいて、緋天がしゃがみ込む。

「緋天ちゃん!!」

「ベリル!!やめろ!離れるんだ!」

「だけど・・・」

 さらに緋天の名前を呼んで、その前に膝をつけば、オーキッドが下がらせる。こんな状態で放って置く事なんてできない。

「ベリル!!他の者も、全員下がれ!緋天さんを刺激するな!」

 

 

 頭を抱えて、泣き続ける緋天の、白いシャツから、薄赤い光と濃い紫の光が見えた。

 叔父の厳しい指示に、不本意ながらも従って。彼女の様子を見守っていた時。

「・・・叔父さん、あれ。緋天ちゃんの結晶ですか?2つ光がある」

 それを聞いて、オーキッドが視線を移して、顔をしかめる。

「紫は、恐怖の色だな。それはいいとして、赤い方は・・・」

 その時、一瞬、緋天の体が透明に揺らいで見えた。

「っな!何だ、あれ!!?」

 声を上げた途端、緋天の体は何もおかしい所はなくて。見間違いだと判断した。それでも、薄赤い光はまだ残っていた。

「結晶と、もうひとつ・・・緋天さんのお守りか・・・」

 オーキッドが、何かを思いついて、頷いている。

「でも、何で、あんな光が・・・」

 そう口に出した時、蒼羽の足音が聞こえて、全員が入り口に視線を移した。

 

 

      小説目次      

 

 

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送