おまけの内緒話
「ったくもう〜、緋天ちゃんに誤魔化すの大変だったんだから。感謝してよ」
緋天の去った階段から、代わりに上がってきたベリル。
眉をしかめて、階下での彼女とのやり取りを話している。
「緋天ちゃんは知らない方がいいって、そういう系統の知識は」
「・・・そう思うか?」
眉をしかめる彼に尋ねると、大きく頷いてみせた。
自分だけが、夜の知識を教えるならばそれでいいではないかと。先程思い至ったばかりなのに。
「自然と知っていくならいいけどさ。無理に教え込まない方がいいよ。パンクしちゃうでしょ」
「あー、はいはい。まぁいいよ。蒼羽の好きにすれば。いいよね、幸せで」
ふ、と小さく嘆息したベリルは、一拍置いてにやりと笑う。
「あ、そうだ。今日さ、夜、緋天ちゃん拉致するつもりなんだろ? 昼間の内に寝かせとけば?」
「人聞き悪い言い方するな。・・・そう簡単に寝てくれたら苦労しない」
トーンを落として言い合う。
こんな会話をしていると彼女が知るのは、やはりどこか拙い気がしたので。
「・・・それが、いいものが手に入ったんだよね。無味無臭の睡眠導入剤。効き目ばつぐん」
「何を企んでるんだ・・・」
ベリルの笑みはどこか背徳感と高揚感、それらを同時に放っているように見えた。
彼がこういった笑いを浮かべる時は、必ずといっていい程に、型破りなことを考えている。それが判っていたから、聞きたいような聞きたくないような、双方の気持ちが湧き上がった。
「食後のお茶。緋天ちゃんのにちょっとだけ入れてあげるよ。2〜3時間ってところかな。副作用はないから安心して」
「・・・報酬は?」
「二階で寝かせないで、下のソファで寝かせてほしい。それだけ」
こんな都合のいいことを、彼がタダでやろうと申し出るわけがない。
聞くだけ聞いてやろうと、望みを訊ねれば。
自分にとっては何の痛みもない答え。
「悪いようにはしないよ。多分、夕方には私の目的も判ってもらえると思うけど?」
にこりと笑う、その顔は。
十中八九、誰もが騙されるだろう、人好きのするものだけれど。
「ぐっすり眠れるから、短時間でも倍の時間寝るのと同じ効果は得られるんだよね」
自分は騙されない。
彼は、彼の為にこの笑顔を浮かべているのだ。
その目的は判らずとも。
それだけは、判っていた。
「乗る? 乗らない?」
「・・・・・・乗る」
「はい。交渉成立。緋天ちゃん呼んでくるよ」
悠々と階下へ降りる彼の背中を見送る気はなかったが、つい見てしまった。
ベリルに敵う日は、来るのだろうか。
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